第8話 父と兄
なにかしようとすればそれも「うるせえ」といって孝道は咎める。家にいて、彼も京子も何ができるかといえば、孝道の機嫌を伺いながらヒッソリと生活をすることのほか、プライベートはほぼ孝道の思うままに支配され、まるで飼い慣らされた奴隷のようにこの監守に監視されているのだという意識で、じっとしているまでだ。
勤めに行って、日昼家にいない父親にはそれがわからない。父が帰ればどうせ京子は「なんとか言ってよ」というのだろうが、そんなことを説明もなしにいきなり言われたとして、父が何を理解するのだろう。父は頭ごなしに兄を責めはじめ、兄は「お前に何がわかってるって言うんだ!」と結局何にもならない口論が毎晩続く。父の要領を得ない言葉が彼をいつまでも嫌にさせた。揚句父が言うのは「――近所迷惑だ」とそれに尽きる。しかし、何が悪いのかと言えば本当のところは兄が悪い訳ではない。父にはこどものことが分からない。京子にはこどもをどうしてやればイイかわからない。こんなバカな親の相手をしていたら気が狂うのも当然である。兄は甘えたいという心が消えないだけだ。きっとあの時、学校の先生からもう来なくていいと言われた時、誰も助けてくれなかったという事実がトラウマとして孝道の中で延々と繰り返されている。そして幸助自身にもこの理解し難い状況のバカらしい家族関係をどうする気にもならない。