第2話 兄②
孝道は母の見えないところでも幸助を殴ることがあった。彼はいつも兄に嫌味を言われて、殴られていたため、そのうち家にいることが怖くて仕方がなくなった。そして彼はどうして兄にたびたび殴られるのか、よくわからなかった。彼は次第に兄に対する恨みをつのらせた。物心ついた頃には彼にとって兄は異常者の何者でもなかった。
幼少を過ぎたころ、幸助たち家族は荒川の団地を引き払って、東京の西の方へ引っ越した。幸助も孝道も、ともに学校に通うようになると、彼に対する兄の異常な暴力はなくなった。
孝道は学校に通ってもあまり友達はできないようであった。弟を訳も言わずに馬鹿といって殴っていたくらいだ。彼の兄は誰彼かまわず馬鹿と言って喧嘩を吹っかけていた。それから人よりも自分は優れていると思っていた。
幸助が近所の友だちと遊んでいれば、孝道はこう咎める。
〝あんなわがままとよく遊べる〟
人が周りで楽しんでいても、兄は邪険にする。理由はこれと言ってない。ただ単に自分本位の言葉だ。
そのうち幸助にも近所で遊ぶ友達がいなくなった。それは兄の関係で彼の家に対する悪い噂が近所に流れ始めたからだ。孝道はそんな幼少を過ごして、中学にあがった。それからしばらくして孝道は外に出なくなった。