第27話 一項
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彼が大学へ向かうのに電車に乗ると、どっと疲れがのしかかってくることがわかった。電車の窓は頁を一枚一枚めくって、彼の想いとは逆に時の流れを早く正確に押しつけていった。彼はそんな景色の空ばかり見ていた。
今も昔もあまり変わらない。
彼は自分もひとりの人間だということを思いながら、今めくられて行く窓の一頁一頁が憂鬱で実感のある時だと知らせてくれているのを感じた。彼は座席に座ったまま、両足を弄んでいた。それは怒涛の一週間を終えて、その隙間に空いたところに吹き入れられる風のような一頁だった。そしてその隙間にそうやって入り込んでくるものは愉快なものなのか、それとも侘しいものなのか、定かにはしなかった。
夕方、家へ帰る道すがら、伯母から連絡があり、紙オムツを買ってきてほしいと言われたので、彼は途中スーパーに寄った。今度の震災の影響で生理用品の商品棚はほとんどが空になっていた。紙オムツも例外ではなく、二四着入り祖母の身体に合うサイズのものはほとんど買われてしまっていて、スーパーの他、ドラッグストアなど、三軒回ったのち一袋しか見当たらなかった。
彼が家へ帰ると伯母が夕飯の支度を終わらせて祖母の食事を手伝っていた。彼は伯母に紙オムツを渡して、買い回ってきた話をした。
「みんなバカみたいね。こんなこと一時的なことなのに」
伯母は尤もなことだけを言った。
祖母はその話を聞いて、「へえ」と言っただけだった。
祖母はこのごろ疲れているのか、話をするのも嫌になっているみたいだった。