第22話 叔父の死
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電車を降りると駅名を繰り返すアナウンスが聞こえた。 ホームを降りて、冬の三時、乾燥しているけれども、どこも日は当たらず、その気候はどんよりと曇って、市街地はよりいっそう鬱蒼としていた。駅を出ると住宅街だけあって、後は何にもないところである。改札横からすぐに小道に出る。U市のこの道は、彼にとって古い、懐かしい道だった。
「向こうの爺さんの家、覚えてるかよ」
父が先に口走った。
「この道、探さずに通れるんだから、間違わずに行けるんじゃないかな?」
「そうか」
幼い頃は彼も父に連れられて年末は度々母方の親戚の家へ出かけることが多かった。それが兄の問題があってから、父は突然向こうの爺さんの家には行かなくなった。幼い頃の彼にはそのことがよくわからなかったが、今はだいたい察しがついた。それはこの頃の父が度々こんなことを言うからにほかならなかった。
「お前も結婚する前に相手の家をよく見ろよ」
側溝もフタがされていない舗装すら削られて砂利臭い田舎道を1キロくらい歩くと小高い丘の上へとたどり着く。振り返るとさきほどいた駅が小さく見える。その他はひたすら家がズラッとあって箱だらけのなにもない街に見える。その風景は無感情な印象を与える。
「南教会でしょう? 今日行くのは」
「ああ、爺さんの家の先にある――」
喪服を着てなりだけ揃えていたが、気分は葬式という感じではなかった。
「叔父さん、何で死んだって?」
「さあ? 胃癌だったか、――見つけた時にはいろいろ転移していたらしいな」
彼は叔父の家に孝道が荒れていた頃、たびたび遊びに行くことがあった。彼は叔父の長男、要するに従弟と仲が良かった。夏休みのように長い休みは毎年のように遊んでいた。しかし実際彼には叔父に世話になったと義理立てするほどの思い入れはなかった。その頃の記憶から叔父を思い出して見ると、何を親身に思うのかはわからなかった。しかし彼はそうでも叔父は実際、彼に良くしてくれていた。はっきり言ってしまえば叔父からしてみれば彼はほとんど赤の他人である。それを数年間、毎年夏休みになると面倒なのにも関わらず、遊びに付き合ってくれていたわけである。そしてそう考えれば考えるほどその人のいい叔父が、どうして死んでしまったのだろうと彼は思うほかなかった。
記憶の中の叔父はどこも悪いところはなさそうであったのに――。