第19話 調停①
孝道はその日のうちにあの家へ戻った。孝道は祖母には恨みがないから問題はないだろうという話をして、家にいた祖母はそのまま留まることになった。実際に孝道は祖母に危害を加えることはしなかった。そして祖母は父と家の修繕のことで話をした。父は祖母に孝道の見張り役を頼み、やがて家に戻ることを考えているのだと話した。そして、孝道のいない間に父は家から背広やら、家の権利の書類などを全部持ち出して、彼と不自然にも、半年近く母親の別居先に使っていたアパートで暮らした。
そうした生活は、どんより淀んだ空気の中で過ぎた。カラッとサッパリすることはなく、どことなく湿っぽい長い月日だった。
家族に対する彼の失望は既に感じられることだった。ただ、事を起こすのに時間がかかるだけで、そのためにひどく陰湿でしつこく、清算は早い時間では間に合わなくなっていた。京子は別居先からも離れたが、居所は簡単に知れた。K家に帰っていたのである。父は母親にアパートの代金を支払うのが嫌で仕方ないらしく、毎晩独り言をぼやいた。そして父は溜息ばかりをついていた。離婚は愈々決定的となった。父が調停に呼ばれて、彼もついて行くことがあった。しかし話し合いに同伴することは拒まれた。彼も母親に言ってやりたいことはあった。しかしあの女が話し合っていたのは財産分与のことだけであった。確かに調停で決められるのは離婚の話だけで、家族間の揉め事の解決などは関係なかった。