第9話 家庭
何にしても家にいる時間がどれだけ彼にとって無駄だったか、それだけでも彼をイライラさせる。孝道の言うように食事はロクなものでない。食べられない料理が食卓にたくさん並ぶ。炒めきれていない半なまの野菜炒め、表面だけ焦げて中身の赤いハンバーグ、塩のふられていない焼き魚、醤油漬けの煮もの、出汁の入っていない味噌汁――。何カ月も掃除されていないほこりだらけの部屋、ゴミ箱周りは異臭が漂い、流しには一週間の洗われていない食器が山積みになっている。風呂も3か月に一度しか洗われない。誰も湯船には入らずシャワーだけで日の疲れを取る。ウジの湧いた食器棚、照明周辺はコバエや蛾が飛び回っている。そして彼は眠ろうにも眠れない。埒のあかない親子喧嘩のあとは孝道が朝まで悪態を叫び続ける。「バカ」「何なんだよ」「殺すぞ」――まともに眠れる時間はない。彼は何度も夢の中で孝道を殺した。ときに京子がそうするように夢見た。彼にはこの異常な生活をどうにもできない親がバカらしく見えていたし、いまさら「家」や「世間体」などと父親がいうような理由でどうにか出来る話ではないこともわかりきっていた。それにもともと会話のない家族だったのだし。――