7.落ち着く声
翌日、私はあの中庭での茶番がどんな風に面白おかしく噂されているんだろうと少し怯えながら登校したけれど、私に変な視線を向けてくる人は誰もいなかった。
教室に着いた私は、早速クロエに話しかけた。
「クロエ。おはよう。」
「サナ。おはよう。聞いたわよ? 大変だったわね……。」
「やっぱり噂になっている……のね?」
「エミリア様が勘違いでサナを疑ってそれをレオン様がかばったんでしょう?」
「……勘違い……。」
「噂になっているのは、いつもは必要最低限のことしかお話しされない他人に興味のないレオン様が誰かをかばうなんて! ということと、エミリア様を保健室に連れていくアンサー様が王子様みたいで素敵だったと一部女子が騒いでる。」
「えっ? レオン様はいつも優しいわよね?」
私が先生に頼まれて運んでいた教材が重くて困っていた時はさりげなく手伝ってくださったし、図書館で勉強をしていて分からない問題があった時には丁寧に教えてくれた。
「まさか! レオン様の声なんて授業でしか聞いたことがないって皆言っているわよ?」
「……えぇっ?」
「それよりもアンサー様だってば! 皆ドーピングのことを知らないから! 強くて、頭もそこそこ良くて、顔も良くて、優しくて、王子様みたいって騒がれているのよ。」
……あの棒読み演技はなかったことになっているのね。
きっと皆、アンサー様に対して王子様フィルターがかかっているんだわ。
私だってもし初恋フィルターがかかったままだったら『エミリア様を守るアンサー様素敵』くらいに思っていたかも知れないわ。初恋フィルター許すまじ。
「今回はレオン様のおかげで上手くまとまったみたいだけど、この調子で絡まれてたら面倒くさいことになるかもね……。」
「うぅっ……。」
「アンサー様は、サナが一人の時にしか話しかけて来ないから常に誰かといた方が良いかもね。」
そう言ったクロエは一日私の側にいてくれた。
私は今までアンサー様が話しかけやすいようにわざと一人で廊下を歩いたりしていたけれど、それをしないだけでも効果は抜群だったんだろう。一日アンサー様に話しかけられることはなかった。
「レオン様にお礼を言いたいの。」
放課後クロエに言うと、クロエはレオン様の教室まで一緒に着いてきてくれた。
「レオン様。」
私がレオン様に話しかけると、レオン様のクラスの皆が水を打ったように静まり返った。えっ? なんで?
「サナ様。どうしたんだい?」
レオン様はすぐに私の側にきてくれてそのまま私を教室の外の目立たないところまで連れ出してくれた。
「じゃあ私は帰るね。……レオン様。サナをお願いしますね。」
「クロエ様。サナ様を連れてきてくれてありがとう。」
クロエはレオン様にお礼を言われたことに驚いた顔をした後で、笑顔で去っていった。
「学園で僕に話しかける人などいないから驚いたよ。」
「……それで教室が静かに? でもレオン様はとても話しやすいのに……。」
「サナ様は今日はどうしたんだい?」
「昨日のお花のお礼を言いたくて。とても素敵な花束をありがとうございます!」
レオン様は相変わらず顔は見えないけれど、私の気のせいでなければいつもよりほんの少し嬉しそうな声で言った。
「喜んでもらえたなら嬉しい。」
「……あのっ。私、黄色が一番好きで、だから、本当にとても嬉しかったです!」
「サナ様には明るい黄色がとてもよく似合うよ。」
どっ、どっ、どうしよう! そんなこと今まで言われたことがないから、はっ、恥ずかしい。
「……真っ赤だよ?」
「ひぃぃー。」
照れていることをあっさりレオン様に見抜かれしまってるわ。
「馬車まで送るよ。」
照れている私を気遣ってレオン様はとても自然に馬車まで私をエスコートしてくれた。馬車まではレオン様とたわいもない話をしただけだけど、なんだかとても楽しかった。
顔は見えないけれど、レオン様の声を聞いているとそれだけで気持ちが落ち着く気がしたの。




