2.初恋フィルター
「サナ。お願いだよ。」
私の気持ちなどお構いなしにアンサー様は言葉を続けた。
『嫌です』たった一言なのに。……それでも私にはどうしてもその一言が言えなかった。
「アンサー。帰ってくれないか?」
「僕はサナと話しているんだ!」
「これ以上しつこいならお前の父親に今日の話をすべて伝えるけど?」
「……っ!?」
お兄様の言葉にアンサー様は悔しそうに部屋から出ていった。
アンサー様が出ていったドアを忌々しそうに睨みつけた後で、お兄様は優しく私の頭を撫でた。
「サナ自身が断らない限りきっと俺がいないところでアンサーはまたサナに強要してくるよ。」
「……強要だなんて……。アンサー様はそんなこと……。」
「アンサーは今までもずっとそうだったよ? サナの気持ちなんてお構いなしに自分の得になるようなことばかりをずっとサナに強要してた。」
「お兄様。私は、私の意志で……。」
「サナが自分に逆らえるはずがないと思ってする依頼は、強要と同じだ。」
「……私は……。」
「ずっとサナには目を覚ましてほしかった。今回のことは、5万発は殴ってやりたいくらいに腹の立つ話だったけど、それでもサナが自分で考えるいいチャンスだと思うよ。」
「……チャンス?」
「アンサーへの思いを断ち切るいいチャンスだと思うよ。」
「あのっ。お兄様……。私の気持ちは、その……。もしかして皆にバレていたりするのですか?」
「えっ?」
「だってお兄様の言葉を聞いていると、まるで私がアンサー様を、すっ、好き……みたいではないですか?」
私はさっきから気になっていたことを思いきって聞いた。だって、アンサー様への想いは、ずっと誰にも打ち明けていなかったのに。それこそアンサー様がリーズ様と婚約をされてからは、決して誰にも。
「……まさか気づかれてないとでも思ってたの?」
残念なものを見るようなお兄様の目線に私は羞恥で頬が熱くなるのを感じた。
「だって、私は1度も言葉にしていません!」
「あのさそんなに顔を真っ赤にして……。サナほど分かりやすい子なんていないよ?」
「うぅっ。……まさか他の方にも?」
「少なくともこの屋敷で気付いていない者はいないんじゃないかな?」
「ひぃぃー。」
「父さんも母さんももちろん気付いてるよ。だからなんとかアンサーとサナを婚約させようとしていたんだよ?」
恥ずかしすぎて意識が飛びかけた私だったけど、お兄様の思いがけない言葉に一気に頭が冷えた。アンサー様と私が婚約? そんな夢みたいな話が?
「それは本来難しい話じゃないはずだった。どちらの家にもそれなりにメリットのある話だしね。だけどなぜかサナとの婚約はなかなかまとまらず、我が家からしたら寝耳に水の状態でリーズ侯爵令嬢とアンサーの婚約が決まっていた。……まるで何かの強制力でも働いているようだったよ。」
強制力?
「だけど婚約が決まってからのアンサーの態度を見ていて、あんなのとサナが婚約しなくて本当に良かったと思ったけどね。」
「……あんなの……?」
「サナが自分のことを好きだって気付いているくせに素知らぬふりしてサナの魔法を利用して。しかも周りには気付かれないようにこそこそサナに強要して。」
やはりアンサー様自身も私の気持ちに気付いて!? そうよね『サナの僕への恋心』だものね……。
……でも、よく考えたらそんなこと自分で言うって相当痛くない? あらっ? アンサー様ってもしかして痛い人?
「今回のことは本当にいいチャンスだから、初恋というフィルターを外してアンサーという人間を見てみたら?」
「……初恋ということまでご存知なのですね……。」
「この屋敷にいる者は多分全員……。」
「ひぃぃー。」
上手く隠せていると思っていた私の10年間の初恋はあっさり皆に知られていたと知って私は穴を掘って入ってしまいたいほど恥ずかしくなった。




