19. ヒロインの逆襲?
リーズ様とのお茶会は私にとって、とても貴重なものだった。
教えて頂いた話は信じられないようなものだったけれど……。だけど、今の幸せは、奇跡のように大切なものなんだと気づかせてくれた。
「サナ? 招かれざる客が来ているみたいだよ。」
感慨に耽っていた私は、ノックをして私の部屋に入ってきたお兄様の声に我にかえった。
「お兄様!」
「先触れもなくやって来るなんて信じられないよね。僕は会う必要なんてないと思うよ?」
「……誰が来ているの?」
「エミリア様だよ。」
お兄様は怖い顔をして言った。
エミリア様……。何しに……。
それでも突然やってきたエミリア様に会うことにした私は、なんとかお兄様を宥めて、応接室で待っていたエミリア様のもとに向かった。
「サナ様っ! 私、お父様に殴られたんですよ? 『なんてことしてくれたんだ! もう嫁にいけないぞ! 』って信じられなくないですか? 全部サナ様のせいですよ! 責任とってください。」
私が入った瞬間、エミリア様はいつもの調子で話し出した。……慣れてきたとはいえ恐怖。少し慣れてきた自分にも恐怖。
「……それは卒業パーティーでのことで?」
「そうです! なんで私がお嫁に行けないんですか? そんなわけないですよねー。」
「えぇ。だってエミリア様はアンサー様と婚約されるのですよね?」
「やっだぁ! アンサー様はもう終わりですよね? 私がそんな人と婚約するわけないじゃないですかー。確かになんかゲームと違うかもとは思ってたんです! アンサー様はきっとバグだったんですね。」
……この人、何しに来たのかしら?
「アンサー様と婚約しないのならエミリア様のお父様の言っていることは正しいのでは?」
「はぁ? なんでですか?」
「だってエミリア様の体には傷痕があるんですよね? しかもその傷をアンサー様に見せていたのに他の方と婚約など……。」
「何言ってるんですか? 私の体には傷一つないですよ! 言いがかりはやめてください!」
……帰ってくれないかしら?
「言いがかりも何も、エミリア様が皆の前で宣言しましたよね? もしそれが嘘なら私への不敬ですよ? リーズ様が言ってましたよね?」
私の言葉にエミリア様は私を睨み付けた。
「サナ様。酷いです! そんなに私に意地悪して楽しいですか?」
「……エミリア様。帰っていただけますか?」
これ以上話しても一生分かり合える気がしないわ。……逆に分かり合えない方がいいと思えてきた……。
「ひっどーい! 私はサナ様がちゃんと悪役令嬢をやってくれなかったせいでこんなに困ってるのに!!」
「……はぁ……?」
「だからレオン様を紹介してください!」
「はっ!?」
「私はヒロインなんです。だからレオン様も私と話せばきっと私を好きになります!」
「……卒業パーティーですでに話してますよね?」
「どうしてそんな意地悪するんですか! 私がレオン様に会ったらレオン様は私を好きになっちゃうから怖いんですか?」
……護衛を呼んでもいいかしら? あるいは魔法で強制的に追い出す? 私が真剣に悩みだした時、応接室のドアが開いた。
「サナ? 大丈夫?」
お兄様! きっと音声を聞いていて助けに来てくれたのね!
「ジョアン様っ!! そっか! サナ様はジョアン様の妹だもんね! じゃあもうジョアンでも良いかも。」
最後の方は聞き取れないくらいの小声だったけど、絶対変なこと考えてるわね。エミリア様。
「ジョアン様。お父様とサナ様が魔法の才能に溢れているからって落ち込むことなんて何もないですよ。魔法なんか使えなくたってジョアン様はジョアン様です。」
さっきまでとは違うとびきり可愛い顔でエミリア様は、お兄様の顔を見て目を潤ませながら言った。何? これ? 例の物語の中の台詞なのかしら?
でも……言ってる内容は……。
「当たり前だけど?」
私が思ってたことをお兄様はきっぱり言った。そりゃそうよね。お兄様はお兄様よ。当たり前じゃない。
だけど、お兄様の言葉にエミリア様は尋常じゃなく驚いているわ。
「えっ? なんで? このセリフさえ選択すればジョアンとはハッピーエンドになれるはずなのに。ジョアンルートは、会うことさえできれば激チョロのはずじゃ……。」
また意味不明なことを……。あっ。ヤバい。お兄様がとても怖い笑顔になったわ。これは、あれね。また鬼畜スイッチが入ったわね。……エミリア様。終わったわね。
「君、頭おかしいの?」
ひぃぃ。お兄様絶好調。
「なっ!? なんてこと言うのよ! お父様や皆に言いつけてやるんだから!」
「で? 誰が君の話を信じるの?」
「……えっ?」
「卒業パーティーで、サナに階段から落とされたって宣言して、アンサーと婚約するって言ったんでしょ? どっちも嘘だよね? そんな嘘つきの話、誰が信じるの?」
「私は嘘なんて……。」
「学生が学園の中で起こしたことだから無事ですんでるけど、もう国中の噂だよ? エミリア子爵令嬢は虚言癖があるって。」
「なっ……。」
「あぁ。でも1つだけ嘘が本当になるね?」
「……えっ?」
「相手はサナじゃないけどきっとこれから学園で君は、君の願望通り毎日虐められるよ。おめでとう。」
「はぁ? なんで私が!」
「トム王子の卒業パーティーであれだけやらかしてレオンの婚約者に喧嘩を売ったんだから当然じゃない? それにもう守ってくれるアンサーもいないしね。」
「私には他にも……。」
「商人の息子のハンスだっけ? 彼もダメだよ。君、アンサーと付き合ってるのにハンスにもいい顔して貢がせてたんでしょ? 卒業パーティーの後に君への呪詛で大変だったみたいだよ。絶対に助けてもらえないだろうね?」
「なんで、だって、私は、ヒロイン、なのに。」
「へぇ。君、ヒロインなの? そのゲームってやつの中で? でもそれっていつまでなの?」
「……ゲーム、は、アンサー様の、卒業パーティー……でも……。」
「ねぇ? ゲームのヒロインだと思って生きていた君は、ゲームが終わったらどうなるの?」
「……私……は……。」
「これからの人生は、ゲームの2年間よりずっとずっと長いのに?」
「だって! 私は! ヒロイン……だから……。自分がヒロインだって、知っていたから……。どうすればハッピーエンドになるか……答えを……知っていたから……。」
「答えを知っていたのに失敗したの? 笑えるね。サナは答えなんて知らなくても幸せになれたのに。ねぇ? これから答えを知らない世界で君はどうやって生きていくの?」
お兄様の言葉にエミリア様はもう何も答えなかった。
「お帰りください。ヒロイン様。」
お兄様は無表情で言った。
エミリア様は、力なく出ていった。




