18. 答え合わせのようなもの(ゲームと現実の違い編)
「私がこの物語のことを思い出したのは5歳の時、サナ様がピクニックに行く前日の夜だったの。私は急いでお父様にお願いして、翌日ブルーノ伯爵家の近くの森に、侍女と護衛に連れていってもらえることになった。無邪気に遊んでいるふりをしながら、私がジョアン様を見つけた時、すでにサナ様とアンサー様ははぐれてしまった後だった。」
6歳の森での出来事で私は引きこもりになるはずだったとリーズ様は言った。だけど、現実にはそんなことは起きていない。それは……。
「私はその場にいたジョアン様に必死に伝えたの。物語で見た湖の近くにすぐに向かってほしいって。まだ5歳の私の、その時には身分も碌に証明出来なかった小娘の話を、ジョアン様は聞いてくれた。」
「……お兄様とリーズ様のおかげで私は……。」
「いいえ。私は何もしていないわ。すべてはジョアン様が、私の話を信じてくれたから。」
「だから未来は変わった……?」
「ええ。サナ様は心に傷を負わなかったし、ジョアン様に依存しすぎることもない。そしてアンサー様が自分を責めることもない。私は、アンサー様と愛し合える婚約者になれると思ったの。」
「……リーズ様はアンサー様を……?」
「物語を読んでいた時、私はアンサー様が好きだったのよ。物語の中のアンサー様は、自分に厳しくて、いつも努力して、だから成績も良いし、誰よりも強かった。物語の中でエミリアに見せる笑顔がたまらなく素敵だと思っていたの。……だから、私は、リーズになれて嬉しかったのに……。」
リーズ様はほんの少し悲しそうに見えた。
「だけどアンサー様は変わってしまった。サナ様の魔法の力を自分の力だと錯覚して、努力をやめてしまった。どうやったらサナ様に魔法を使わせることが出来るか、そんなことばかり考えているようだったわ。現実のアンサー様は、物語とは全く違う人間になった。」
「……それは……私の魔法のせい……なのですね。」
「いいえ。アンサー様の本質がそうであっただけよ。ジョアン様もサナ様のことをいつも心配していたわ。貴女に物語のことを話そうかとも思ったんだけど、貴女を混乱させるだけだからと……。」
お兄様……。
「私は、アンサー様と愛し合うことを諦めたの。現実のアンサー様のことを少しも尊敬出来なかった。尊敬できない人間を愛することなんてできない。物語の中で、リーズは同じクラスのエミリアのことを目の敵にしていたから、今度は私の物語を変えようと私は留学をして飛び級をしたの。私の思惑通り、エミリア様との接点は全くなくなったけど、まさかエミリア様が代わりにサナ様を悪役令嬢にしようとするなんて……。」
雑すぎる計画でしたけどね。
「だけど、エミリア様は現実のアンサー様が物語と違うことには気づかなかったんでしょうか?」
「エミリア様は気づいていないと思うわ。アンサー様は、一見物語と全く同じだもの。誰より強くて、成績が良い。……ただ、それが努力ではなく、サナ様の魔法の力だっただけ。」
「でも、アンサー様のお父様は横領で捕まりましたよね? それなのにエミリア様はアンサー様と婚約したかったんですか?」
「あぁ。ブルーノ伯爵の件は、物語にはない出来事なの。……あれは、ジョアン様が……。」
「お兄様が?」
「貴女への態度が許せなかった、と。」
「えっ?」
「アンサー様に攻撃魔法を使ったと一方的に貴女を怒鳴りつけたブルーノ伯爵にガチギレ……壮絶な怒りを覚えたらしくて、絶対に許せないと言って、トム王子やレオン様も使って徹底的にブルーノ伯爵家を調べたのよ……。」
おっ、お兄様。愛情が嬉しすぎて重いです。
「でも、それじゃあアンサー様はとばっちりで……。」
「彼は自業自得だから心配する必要なんてないわ。トム王子に父親の横領を告げられた時、『父上の横領が』と言ったのよ。アンサー様は父親の横領のことを知っていた。物語のアンサー様は知らなかったはずだからきっと本来の物語にはなかったあの謹慎中に気づいたんでしょう。」
アンサー様。本当のクソ野郎じゃない……。
「さぁ。私の話はこれでおしまい。何か聞きたいことはある?」
「あのっ、エミリア様は卒業パーティーで、レオン様の事を『隠しキャラ』と言ったんです。あれは一体……。」
「そうね。肝心なことを忘れていたわ。レオン様も物語に出てくるのよ。さっきの5人との恋愛をすべて成就させると出てくるシークレットキャラ。きっとエミリア様は、全ルートのクリアはしていないのね。だから公開スチルは見たことがあっても、それがレオン様だとは気づかなかったんだわ。」
「あのっ? すみません。全くわからないです……。」
「ごめんなさい。なんていうかレオン様のことはとても説明が難しくて……。そうね……。レオン様は特別な人だから、レオン様が出てくる物語はとても貴重なの。でもその物語を手に入れることが出来ない人でも1枚の絵は見ることが出来る。その絵は、黄色いドレスを来たヒロインの前で、跪いて右手を差し伸べる、レオン様の後ろ姿の絵。」
「それって……もしかして……。」
「ええ。卒業パーティーでエミリア様が見た、まさにあの光景ね。」
「……えっと、じゃああれは本当はエミリア様がいるはずだった場所……。」
「そんなことないわ。この世界の、現実のレオン様は貴女を選んだんだもの。だからあの場所は貴女だけの場所。」
リーズ様の力強い言葉に私は思わず微笑んだ。良かった。レオン様の隣には私がいていいんだ、そう思えたから。
そんな私の顔をリーズ様が見つめていた。
「……サナ様。ごめんなさい。どうしても我慢出来ない……。少しだけ、1度だけ、田中可奈子として伝えさせてほしいの。」
「タナ? カナ? ……どうぞ。」
「サナが幸せになって本当に良かった! あのゲームは大好きだったけど、サナの扱いだけが不満だったよ! だってサナは何にも悪くないのに、ただアンサーを守りたかっただけなのに! アンサールートではモブキャラだし! どうやっても卒業後はまた引きこもり確定だし! そんなサナが可哀想でとっても悲しかった。だからサナが、本当のサナが、こんなに明るくて、無邪気で、元気で、優しかったんだって知れて嬉しいよ! それに悪役令嬢にさせられそうになったのにまさかレオン様とハッピーエンドになるなんて! 私は! ほんっとうに嬉しいの!!」
「リーズ様。ありがとうございます。……理解出来てない部分も多少? ……かなり? ありますが、私を祝福してくれているんですよね? すごく嬉しいです。」
私の言葉にリーズ様はとっても嬉しそうに笑ってくれた。その顔はいつものリーズ様とは全く違う笑顔だったから、私にはなんだか別人に見えた。




