13. 地獄のような面談
突然のアンサー様のお父様の言葉に私は固まってしまった。
「それはどういう意味ですかな?」
普段は優しいお父様が、聞いたこともないくらいに冷たい声でアンサー様のお父様に聞いた。
「どういう意味も何もそのままだっ! サナ嬢がアンサーを突然攻撃魔法で攻撃したそうだ! そうなんだな? アンサー。」
「ええ。父上。僕はサナに攻撃魔法をかけられました。」
「武術の試合で誰にも負けたことがなかったアンサーが先日無様に負けた! おかしいと思って問い詰めたらサナ嬢に攻撃魔法をかけられて怪我をしたことを隠していたと白状したんだっ!」
「サナ。庇いたかったけど庇えなくてすまない。」
アンサー様は真顔で言った。
いやいやいや、私がかけたのは防御魔法! 正当防衛! しかも絶対怪我なんかしてなかったよね?
思わず心の中で突っ込みを入れてしまった私に構わずアンサー様のお父様の一方的なお話は進んでいた。
「俺としてはとてもそんなことでは許せないが、アンサーの慈悲だ! サナ嬢からの謝罪と、今後のアンサーへの奉仕でこの事は不問に付してやっても良いっ! サナ嬢には、アンサーが望む限りアンサーのサポートをしてもらうっ!!」
「……それは、私に、今までのようにアンサー様に、毎日疲労回復ドリンクを届け続けろ、強化魔法をかけ続けろ、ということですか?」
「なんだとっ!? 言うに事欠いてとんでもない事をっ! アンサーが疲労回復ドリンクや、ましてやお前なんかの強化魔法など求めるはずないだろっ! 不敬にも程があるぞ!」
突然怒鳴られて私は震えてしまった。さすがアンサー様のお父様……。怖い……。
私が怯えてしまったその時、応接室にアンサー様の声が響き渡った。
≪おいっ! いい加減にしろよっ!≫
一瞬、時が止まった気がした。
真っ先に動き出したのはアンサー様だ。
「なっ、なんだよ!? これはっ!!」
だけど、アンサー様の問いに答える声はなく、またアンサー様の声が響きわたった。
≪なぜ疲労回復ドリンクを持ってこないんだ!≫
今度こそ時が止まった。
止まった時を動かしたのは、お兄様の笑い声だ。
「はははっ。アンサーが疲労回復ドリンクを求めてますね?」
「これは、一体何だというんだっ!?」
アンサー様のお父様の怒鳴り声が響いた。
「サナの魔法ですよ。あなたが今さっき『お前』呼ばわりしたサナがかけた魔法ですよ?」
冷静に答えるお兄様に、私は昨日の夜にお兄様にされたお願いを思いだしていた。
「サナが記録している音声データを僕が再生できるようにして?」
それがまさかこんなことになるなんて……。
ちなみに他の音声はすぐに削除しているから、お兄様にお渡しした音声は、アンサー様がご乱心された時の物だけだ。
≪サナは僕のだろっ! 僕のものなんだよ! 僕のために尽くすのがサナの幸せなんだ!≫
ひぃぃ。お兄様ただでさえ重い空気の中で、その音声は地獄ですー。お兄様は鬼畜なのですか?
固まっていたアンサー様のお父様が動き出した。
「アンサー!! どういうことだっ!!」
父親から怒鳴られたアンサー様だけど、何も答えられずに口をパクパクさせていた。そしてそれでも鬼畜お兄様は止まらなかった。
≪サナだってレオン様の爵位目当てなんだろ? 最近仲が良いって噂になってるよ。僕に焼きもちを焼かせるためなんだろ! でないとあんな気持ちの悪い男!≫
「ブルーノ伯爵? さっきサナに不敬だと言いましたか? 伯爵家のサナがブルーノ伯爵に事実を伝えたのが不敬ですか? 伯爵家のアンサーが公爵家のレオン様を『気持ち悪い』と言っているのは?」
さっきまで怒りで真っ赤だったアンサー様のお父様の顔色は、蒼白になった。
「そもそもサナはアンサーに攻撃魔法をかけたの?」
「お兄様。私は、アンサー様から暴力を振るわれそうになったから防御魔法をかけただけだわ。」
お兄様が落ち着いて聞いてくれたので、私も落ち着いて答えられた。
「なんだとっ!? なぜ最初にそれを言わないんだっ!」
私の言葉になぜか勢いを取り戻したアンサー様のお父様は、また顔を真っ赤にして私を怒鳴り付けた。
それに答えたのはお父様だった。
「ブルーノ伯爵よ。いい加減に娘を威圧するのは止めてくれないか? 娘の話を聞こうともしなかったのは貴公だろう。」
「しかしっ!!」
それでも言い募るアンサー様のお父様に、お兄様の鬼畜スイッチが追加で押されたらしい。アンサー様の音声が止まらなくなった。
≪サナ。嫉妬してつまらないことを言うと怒るよ。≫
≪今まで通り特製ドリンクを作ってくれさえすれば僕はサナの側から離れたりしないから。≫
≪サナが、僕に、今まで通り、尽くしてくれるなら。≫
≪おいっ!! 本当に怒るぞ。≫
「サナ。可哀想に。怖かっただろう? か弱い女性を脅して怒鳴り付けて殴ろうとするのがブルーノ伯爵家の流儀なんですね? アンサーがサナにしたことと、ブルーノ伯爵が今日サナにしたことは同じですよ?」
お兄様の言葉にアンサー様のお父様は、今度こそ止まった。
アンサー様はもはや一言も発することなく俯いていた。……息してる?
「今日の音声も登録していますよ? ホワイト公爵家にお渡しします。不敬罪ですよね?」
お兄様の言葉に、アンサー様のお父様は顔を真っ青にした。
「頼む。それだけは止めてくれ。アンサーは俺が鍛え直す。卒業パーティーまでは学園にも通わせない。だからっ!! 頼む!」
「本当にご自分達のことばかりですね? サナへの謝罪は?」
お兄様の言葉に、ブルーノ伯爵は私を見た。その目は、何かを懇願する時のアンサー様の瞳と同じだった。
「サナ嬢。すまなかった。だからどうか……。」
「……私はもう良いです。アンサー様がもう私に関わらないと約束してくれるのなら。」
本当に。心から思った。もうこの家族と関わりたくない。
「もちろんだっ! 約束するっ! アンサーお前も言えっ!!」
「……僕は……。」
「アンサーっ!! もうサナ嬢に関わらないと言えっ!!」
「……サナに関わり……ません……。」
かなり怪しいがアンサー様も約束してくれた。
「その言葉を忘れずに。お帰りください。」
お父様の冷たい言葉で、主にアンサー様親子にとっての地獄のような面談は終了した。
せっかく侍女が淹れてくれた紅茶は誰にも飲まれることなく冷たくなっていた。




