10.お兄様ルートの悪役令嬢?
アンサー様をやっつけてしまった。……だって、まさかあんなに弱いなんて思っていなかったから。
アンサー様ご乱心事件から一日経って落ち込んでいる私に話しかけてくれたのはレオン様だった。
「サナ様。」
「……レオン様。どうされたんですか?」
「クロエ様からサナ様が落ち込んでいると聞いて……。」
クロエが?でも私は昨日のことは何も話してないのにどうして? そんな私の困惑が通じたんだろう、レオン様は優しい声で言った。
「サナ様ほど分かりやすい人はいないから。」
私ってそんなに分かりやすいの? はっ恥ずかしいー。私は自分の顔がとてつもなく熱くなるのを感じた。
「何かがあった?」
「……いえ。大丈夫です。」
「本当に?」
「うぅっ……。」
レオン様に昨日の出来事をお話しすべきか、でもこんなところで……と悩んでいた私にレオン様は優しい声で言った。
「サナ様。今度お茶にお誘いしても良いかな?」
「……はぃっ?」
「サナ様の好きな黄色い花が見事に咲いたのでぜひ見てほしくて。」
「そっ、それはレオン様のお屋敷にということですか?」
「ダメかな?」
「まさかっ!! とても嬉しいです!!」
……はっ。がっつきすぎたわ。私の勢いにレオン様は俯いて肩を揺らしていた。笑われてる? はっ恥ずかしいー。でも、とっても嬉しかったんだもの。
「今度招待状を送るね。」
「はい。楽しみにお待ちしてます。」
「教室まで送ろうか?」
「今から図書館に寄ろうと思っていたので大丈夫です。」
レオン様と別れて一人で歩いていた私は、エミリア様と遭遇してしまった。
……しまった。大人しく教室に戻れば良かった。また難癖つけられたらどうしようかしら? 警戒して私がエミリア様と距離をとろうとすると、エミリア様は初めてお話しした時と同じ愛らしい顔で笑った。
「サナ様ったら。そんなに怖がらなくって大丈夫ですよ。ここだとギャラリーもいないから何にもしませんってば。」
笑顔が逆に怖い。
「それにしてもサナ様ってば変わってますね。レオン様と仲が良いなんてびっくりです。」
「……見ていたんですか?」
「レオン様って顔も見えないし怖くないですか? うふっ。あの分厚い前髪の下には見るに耐えない醜い顔が隠れているって聞いたことありますよ。」
「レオン様は怖くなんてないですっ!」
思わず興奮してしまった私にエミリア様はとっても楽しそうに笑った。
「やっだぁ。サナ様ってば、こわーい。怖すぎて『助けてー』って叫んじゃおうかなぁ?」
「……声を荒げたのはごめんなさい。でも叫んでも無駄です。」
「何でですかぁ? 皆サナ様より私を信じると思いますけどー?」
「この会話は、記録されていて私はそれを再生出来るんです。」
そう。お兄様の勧めもあって私はしばらく前から自分の周りの音声を記録していた。わが家の応接室にかけていた音声魔法の応用版で、今まで他の場所に送っていた音声を、そのまま留めて記録する魔法だからそんなに難しくなかったのよね。
「この世界に盗聴機なんてないのに何言ってるんですかぁ?」
「機械でなくて魔法です。」
「あははっ。もうサナ様ってばおっかしいー。サナ様にそんな魔法が使える設定なんかないですってば。サナ様に出来るのはせいぜい犬を殺しちゃうくらいですよー。」
「……?」
「だってサナ様はジョアン様ルートの悪役令嬢に過ぎないんだからそんなチート能力もってるはずないじゃないですか。」
私がお兄様の悪役? 何? どうしよう。本当に何を言っているのか全然理解出来ない。
「あっ。今からアンサー様とデートだからもう行かなくちゃ。アンサー様はすごいんですよ! 王道の王子様よりも人気でファン投票で一位になったんです。うふふっ。だから私はアンサー様ルートを選んだんです。」
可愛らしい笑顔を残してエミリア様は去っていった。
エミリア様は頭がおかしい人。そう結論付けて忘れようとしたけれどどうしてもモヤモヤして私はディナーの後でお兄様のお部屋を訪れた。
「サナ。どうしたの?」
私はお兄様に昨日からの話を全部した。
「エミリア様は、私のことをお兄様の悪役だって言ったの。意味が分からなくて……。」
「エミリア様の言うことなんてサナは気にしなくて良いよ。」
「……もしかしてお兄様は何かを知っているの?」
「どうして?」
「……だって、あんまり驚いていないから。私はエミリア様の話を聞いていると訳が分からなすぎて、頭が爆発しそうになるのに。」
「そうだなぁ。俺はきっと今サナが困惑していることに対する答え合わせのようなものをしてあげることは出来るかもね?」
あっさりと言ったお兄様に私はびっくりした。答え合わせのようなもの? 本当に?
「でもそれは答えではなく、答えになったかもしれないだけのものだからサナはそんなものに振り回される必要はないよ。サナはサナの答えを見つければいいからさ。」
「……でも……。」
「それよりサナはまずはレオン様とのお茶会に着ていくドレスを選ばないとね?」
「そうだわ! レオン様はどんなドレスが好きかしら?」
すっかりレオン様に気持ちがいってしまった私の頭をお兄様は優しく撫でてくれた。
「エミリア様が知っている『こうであったかもしれない未来』になんて意味がないからね? サナが選んだ未来が正しい答えだよ。」




