第3話 自分の姿ではない妄想
どんなに優れていても結果を出せなければ、認められない。
陽菜との相談を終えて、有馬は家に着いた途端、不安になった。誰か知っているクラスメイトに見られていたらどうしようかと思った。ましては、陽菜は学年のマドンナ、注目度は普通の人よりかはある。
薄暗い建物と建物の間で良く見えていない訳だから、もしかしたらいい雰囲気になっているんじゃないかと、疑われたらまずいと察知した。
だが、もう卒業する。たとえ疑われてしまったとしても、その期間は短い。有馬はそっと胸をなで下ろした。
その日有馬は夕食を食べているとき、陽菜のアイドルになる夢に触発されて、こんなのことを妄想してしまった。
(自分も顔が良かったのなら…『レディの声援が僕の励みになる。僕との大切な時間をありがとう!感謝。まあ、僕が君の支えになっているんだけどね!(投げキッス)』…みたいなアイドルになれたのかな)
始まった。いつもの事だ。有馬の妄想は深みにハマればハマるほど、手足や顔の表情、心境までも動いてしまう。そのため、思っていることが声に出てしまうことがあった。しかし、
「優斗。またモノマネしているのね!今度はあのアイドルのモノマネね。似てる。」
と母が感心するように言った。
そうだ。有馬の妄想にオリジナルはいない。全て誰かをコピーし、それらを派生して妄想している。それでも、小学生の頃に妄想によって危機を脱して来たため、妄想から離れることが出来ずにいる。
苦しかった。まるで他人の力を借りているようで忍びない気持ちでいっぱいだった。なのに有馬は、この妄想の力を認めてほしいとも感じる節もあった。
モノマネができるということで、普通の人より何かが優れていると錯覚していたからだ。
ただ、有馬は容姿は中の上、頭も中の上、運動も中の上で、一応少年野球の中心選手という実績もあったが、それはあくまで弱小チームの中の2、3番手という位置づけだった。そのため、やり場のない思いもあった。
有馬はこの現状にあれこれ言いたくなるが言わない。もしこれに対し(僕のモノマネは、モノマネであってモノマネではないんだ。妄想なんだ。モノマネしてる誰かを自分のように思っているんだ。)
などと言ったなら、おかしいと思われて精神病院に行かされる恐れがあるからだ。
ただでさえ、妄想によって体が動いていることがおかしいのに、声に出してしまったら、より不審者のように思われるだろう。だからモノマネで通すようにした。