第2話 驚きの夢
したたかな心であるが故に、嬉しすぎることを疑ってしまう。
有馬は、もうすぐ中学を卒業する。おそらく卒業式は泣かないだろう。だが、
「卒業式は泣いてしまうかもしれないなぁ」
とクラスメイトに上辺だけの嘘をついた。
当然クラスメイトは、
「お前マジか!泣くのかよ。そうか…俺の胸にでも泣けばいいさハハッ」
とツッコミを入れた。
それでいい。なぜなら、もしも卒業式で泣くようなことが仮にあったとしたら、前の段階で泣くことを宣言することで、ダメージを軽くできる。有馬は先のことを計算して、わざといじられ役に徹した。
学校を帰る途中、どういうことかマドンナ佐伯 陽菜に出くわした。有馬も陽菜も家へ帰る方角は違うというのに。
「有馬くん!相談があるんだけど、ちょっと乗ってくれないかな。少しの時間でいいから。」と陽菜は恥ずかしげに言った。
有馬くん!と勢いよく呼ばれた時、一瞬告白かと勘違いしかけたが、相談と聞き、納得いった。
陽菜と有馬は同じクラスメイトだった。有馬はクラスの中で優男として女の子に知れ渡っていた。どうしてかは、まずは女の子に対しては徹底して聞き役として会話し、どんなバカなことにも共感し、話のオチがたとえなくても、自分のせいにして女の子にツッコミをさせてあげた。
そんなような男である有馬を、男の子として相談したい悩み事をぶつけるのは不自然ではないように感じた。
「いいよ!僕で良かったらなんでも相談に乗るよ。陽菜の悩みならなんでも聞くよ!」
と有馬は笑顔で逆に頼み込むように言った。
「そう。じゃあ人気の少ないところで話したいから、あそこに行こう!」
陽菜は少し頬を緩ませるように言った。
移動中、「…人気の少ないところで…」という言葉を先に聞いていたら、もっと楽しめただろうと有馬はふと思った。
相談を話す場所は薄暗い建物と建物の間だった。
「有馬くん…これから話す内容笑わない?」
「笑わないよ」
「私のゆ、ゆめのことなんだけど…」
「夢のこと…いいよ!なんなりと言ってみて」
「私、…アイドルになりたいんだ!」
有馬は驚いた。それは誰かに相談する内容としては恥ずかしいことだろう。だがそれを、男である僕に話すだなんて。もしも僕が色眼鏡で見てしまったらというのは考えなかったのだろうか。そこまで僕を信用しているだなんて有馬は思ってもみなかった。
とりあえず有馬は「本当に後悔しない?」「まあ、自分の夢を持てる人はすごい!」「僕は応援するよ!」とありきたりなことを言った。