裸足で彼女と海へ!
リン……
リンリン リン……
ひまわりの間から流れる 空色の風に揺られ
軒下の風鈴が 高い鉄音をたてる
かき氷器に挟まれた 透明な氷柱の向こうに
氷と書かれた小旗がたなびく
その氷柱から削られて ガラスの器に雪の様に降り注ぐ
店の親父は 黄色いシロップを回しながら注いだ
通りを歩く 白に大きな水玉のワンピース姿の君は
麦藁のつばの大きな帽子をかぶり
こちらに気づいて 大きく手を振った
「よ!」
「オス!」
「おじさん、私にはイチゴ」
「あいよ~」
シャッシャッシャッシャ
この贅沢な真夏の山盛りの雪に 彼女は300円を手渡した
「わ! おじさんの手も冷たい!」
親父はその三枚の硬貨を ザルの中に放った
リン……
リンリン リン……
涼やかな鉄の音
「かき氷はレモンだろ~」
「いや、イチゴでしょ?」
食べるのが早いのか?
溶けるのが早いのか?
店先のタライに 大きな氷と大きなスイカ
スチール製のバケツに 金魚のおもちゃが浮かべてある
「ごちそうさま!」
彼女は器を 竹で作られたベンチの上に置いた
「じゃ、行こ!」
「え?どこへ?」
「いいから!」
彼女に手を引かれて走り出す
白いワンピースがひらひらと揺れる
低いブロック塀を 走りながら曲がると そこには白い砂浜が広がっていた
「突撃ィ----!」
「おぉぉぉおおおーーーー!」
オレたちは砂浜に靴を脱ぎ捨てて 裸足のまま海に突っ込んだ
青春だ!
なんて青春なんだ!
彼女が最初にオレのTシャツに水をかけてきた
よぉし おれだって!
彼女と一緒に 水遊び
バシャバシャと音を立てて 水をかけあう
互いにキャーキャーいいながら
…ふと気づいた
水がかかったワンピースが透けている…
彼女の肌色の素肌に張り付いている
よし…もっと上の方へ…
彼女の胸を目掛けて 水を思いっきりすくって放り投げた!
「やん!」
…と言う夢を見たんだ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「バッカみたい」
「だよねー」
夢みたいな話をしながら幼馴染の紫瑞と一緒に土手に座って花火大会を見ていた。
別々の高校に行っていて久々に会って誘ったんだ。
「誰? 彼女って」
「さぁてね~」
「さては全然青春してないな?」
「そりゃそーだろ。オマエはどうなの?」
「してたら祐樹と花火なんて見てないよ~。」
どーん
どどーーん
と大空に鳴り響く。
少しばかり音が遅い。
光の方が速度が速いからだ。
「今の大きかったね」
「そーだなぁ」
この辺は穴場だ。周りにも観客はいるがギュウギュウというほどではない。
適度に隙間がある。
どこもかしこもカップルだらけ。
オレたちと来たら、ただ家から近いだけ。
「ユーキは好きな人いるんですかぁ?」
幼馴染だからって、こういう質問はデリカシーがない。
もっとデリカシーがあれば可愛らしいのになぁ。
どーん
どどーーん
「たーまやァー……」
前にいたカップルの男の方が叫んだ。
花火を見ていると、つい、叫びたくなる気持ちは分かる。
どーん
どどーん
「たっまやぁ~!」
「かっぎやーー!」
触発されて、他の人たちも叫び始めた。
ウンウン。
みんな叫びたいんだろうなぁ。
普通の日常じゃ叫ぶことなんてないから。
これに乗じて…というやつだ。
「なんで“たまや”なの?」
「おいおい知らねーのかよ。昔、江戸の花火屋に“玉屋”と“鍵屋”があったんだ。それでその店の花火が開く時にその屋号を叫んだんだ。」
「へー。無駄知識」
「無駄知識いうな。…ちなみに、玉屋は倒産した。でも名残で玉屋と叫ぶ人の方が多いんだ」
「ふぅん。そんなに知ってるならみんなに混じって叫んでみたら?」
「おぉう。あんなド素人風情の掛け声なんか目じゃないぞ?」
…って…。
…オレは何をやってんだろ?
こんなことしてる場合じゃない。
今日はコイツに伝えたいことがあったんじゃねーか…。
ひゅーーーーーーーーーん…
ぱっ
どどどーーーーーーん
「好っきっだーーーーーー!!」
二尺玉の大輪に重ねて気持ちを伝えた。
みんな振り返ってる。
紫瑞は真っ赤な顔をしながら、膝をかかえてそこに顔をうずめた。
「バカヤロ……」
といいながら、つまさきを浮かせていた。
オレたちの夏はこれからだ!
【おしまい】