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砂漠の色  作者: savan
私と何かと何かと私
8/13

その先




「……ガリッ……ガリッガリッ!」






これはかなり昔の話だ、

今から数万年ほど前にネハは特異点を見つけた。




それからというもの永遠とこの壁を削る音が、

狭い暗闇に鳴り響いている。





もはやどれだけの時が経ったのかというのは、

考えるのも億劫になるだろう。





「……」





特異点というと何か特別な場所のように思えるが、

実のところそうでもなく、

時間の数だけ存在し、

特に形があるという訳でもない。




ただし何処のどの瞬間かを定義するとそれを見つけるのはとても難しい。




分かりやすい例えで言えば、

猿が人になった瞬間を観測すれば、

そこは文化的特異点と言えるだろう。




しかしそれを見つけるのは言うまでもなく難しい。







「かなり進んだな。」





そして今ネハがやっているのは、

人になろうとしている猿を、

片っ端から殺している状況である。





今というと語弊があるかもしれない、

厳密に言えばアーシャと出会ってからはずっと猿を殺して歩いている。




つまり未来を変え続けていたのだ。





「あと少し、あと少しだ。」





もちろんそんな事を続けていたら未来と過去の辻褄が合わなくなり、

パラドックスが起こる。




それをさせないために、

特異点は事象を捻じ曲げアーシャの機能を停止させ、

ネハがこの世界に干渉しないように追い込んだ。




しかしそれも含めて今は昔の話である。





「ガリガリッガリッ。」





乱雑に鳴り響く壁を削る音は、

若干のリズムを刻みこの小さな世界を形作る。





数万年鳴り響いたこの音も、

ネハからしてみれば世界の変化を感じられる数少ない娯楽である。






「お、このリズムは懐かしいな。」





膝をついて、

壁を顔につけていた面で削り、

そのリズムに合わせて足をバタつかせる。





「チッ、チッ、ガリッガリッ。」




だんだんと陽気になってきたのか、

掘り進むのに合わせて舌を鳴らすネハ。





このリズムは何時だったかラジオで聞いた音楽だ。




リズムはアップテンポな女性が歌う陽気な曲で、

ラジオの周りには3人の軍人が集まり、

皆で談笑しながら食事をしていて、

ネハはそれを興味深く見ていた。




「チッ、ガリッガリッ!チッ。」





少し離れた所では子供が一人拘束されていて、

ラジオの隣には人並みに大きなテルテル坊主が立てられていた。




その時聞いたラジオは後にも先にもそれ以外の物はなく、

ネハの生きてきた歴史の中でも、

かなり印象深い記憶となった。






「今だったらこの手で……。」




ネハはリズムに合わせて色々と記憶を掘り返していくと、

手を止め暗闇の中で目を閉じた。




真っ暗な世界で砂を強く握ると、

そこからすり抜けるように砂は逃げていった。





「見るだけだった頃はこんな感情は湧かなかったのだがな、欲とは難儀なものだ……。」





そして止まってから世界に音が無くなると、

それを否定するようにネハの耳に何かが入ってくる。







「……」






耳を澄ますと、この無音の世界で主張してくるとても小さな音、

それは微かながらも壁の奥から聞こえる。




つまりは壁を揺らすほどに強い物理現象と言えるだろう。





「風……外が近いのか、または事象が狂い始めたのか。」






ネハは直ぐにそれに気が付くと、

一度止めた手を再び動かし始めた。





「外さえ、外さえ観測出来れば……。」






俄然動かす手が早くなるネハ、

少し進むたびにアーシャを連れに少し戻る。




真っ暗な世界で永遠に壁を削るのもあと少しかもしれないと考えれば、

ネハの現状の気持ちも少しは理解出来るものである。






「ガリッガリッ! ガッ…ガッ。」





それから音を聞いて72時間ほど掘り進むと、

壁の岩は段々と柔らかくなってきた。





貯まった土を何度も後ろに運び、

その度にアーシャを担いで連れてくる。





「は、ははは!」




段々と高揚してくるネハ、

進めば進むほど音は大きくなり壁を削る背中を押す。






「……ガッ!」






そして今世界が出迎える。






暗闇だった世界に一筋の真っ白な光が差し込むと、

瞳孔を縮小させ、

同時に愛しさすら覚える熱さが出迎える。




「出れた……はぁ。」





あまりにも普通に出迎えてくるその光景に、

ネハは喜びよりも先に安心感によるため息が出た。





「まだ目が覚めないか。」




今までは無かった風が頬をなでると、

ネハはそれを拒むように面を付け、

アーシャを担ぎに戻る。





「早く起きてくれ、アーシャがいないと私は退屈で仕方がないみたいなんだ。」





暗がりからアーシャを担いで出てくると、

風が強く吹き荒れ、

まるで歓迎しているかのように砂煙が二人を包みと、

見渡すばかりの地平線が出迎えた。





「フフフ……フハハ」





だんだんとこみ上げてくる喜び、

自身の手で未来を作り出す喜びや、

世界に干渉している実感にネハは思わず震え、

笑いがこみ上げた。





それからもアーシャが目覚めるまでネハは笑い続けた。




この音の反射しない世界で。



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