干渉
無限に続くとさえ思える暗い道、
歩みの音は反響し、
何重にも重なった。
少し前、
そうネハからしてみれば少し前は、
見渡す限り地平線で覆われた世界が広がっていた。
「……何処だ……何処だ。」
あれからどれだけ歩いただろうか?
数千時間?
否、それは違う。
では1.2465e+7時間?、
それも違う。
「……ここは何処だ。」
実に4.38e+7もの時間を、
ただひたすらに歩いて、
歩いて、
歩いた。
同じ速度で、
同じ歩数で、
同じ景色を見ながら歩き続け、
同じ回数アーシャを担ぎ直す。
何度も、何度も、何度も何度も。
「……何処だ……何処だ。」
同じ言葉を繰り返すネハ、
その声は足音と共に反響し、
自身に帰ってくる。
「……ここは何処だ。」
自意識を保つためか、
または自身に言い聞かすための言葉か、
真意はネハにしかわからない。
音のない世界で無理やり音を立てる、
一見無意味にも思えるその行為は、
ゆっくりと進むネハの足を助けている様にも思えた。
「……何処だ。」
何もない、何も起こらない、
しかし何かあるかもしれない、何か起こるかもしれない……そう
確率に絶対はない、
いつだって99%と1%の狭間で未来は揺らいでいる。
事実100%の確率で壊れていたアーシャは、
1e+20回の試行回数の末その確率を99%にした。
だがもしかしたらその後1e+20回連続でアーシャは動いたかもしれない、
そしたらアーシャの動く確率は50%まで跳ね上がる。
しかし50%を1e+20回連続で失敗すれば……
つまりそれだけ適当なのだ、
どのタイミングで結果を集計するかで、
確率は好き放題変動する。
「何処だ…。」
ならこの無限のように続く壁も、
永遠にたどって行けば何時か終わりがくるかもしれない。
だが何もせず歩き続けるだけでは、
外的要因に頼る以外未来を変える術はない。
「違う、アーシャが自身で見つけた特異点とは違う……私が見つけなければいけないんだ。」
そんな事はネハ自身がよくわかっていた。
未来が変わる瞬間を観測するだけなら簡単だ、
何かが乱数を引き当てるまで永遠に観測していればいい。
しかし観測する側からしてみれば乱数で起きた偶然も、
乱数を引き当てた側からしてみれば、
自身の行動によって起こった必然でしかない。
つまりネハが特異点を見つけるのは、
偶然ではなく必然でなければならないのだ。
「特異点を見つけた世界線の私は一体何をした……空間も時間もバラバラ、座標の算出は無駄、歩数呼吸回数行動時間その他出来るパターンは無限にある……。」
何もないこの空間でひたすらに試行錯誤を繰り返す、
考えればきりがないほどの些細な変化に希望をのせて、
ただひたすらに歩き続けた。
「クソッ……。」
実に歩き続けて8.76e+7時間、
太陽の動いてる世界であれば1万年程の時が経った辺りである。
あまりにも膨大なその時間も、
アーシャが特異点を見つけるのに要した時間に比べれば、
無いも同然の時間である。
しかしそれは観測するだけだった頃の話であって、
今のネハには時間以上の精神的負担がかかってる。
「後は何がある…私は何をすればいい。」
比較的やることが出尽くし、
ネハは苛立ちを足元の砂にぶつけていた。
蹴り上げた砂が自身をかすめて壁にかかる。
壁はその砂を受け止め、
砂は直ぐに下に落ちた。
「……物理。」
それを見たネハは、
確かめるように何度も壁に砂をかけた。
「フ……フフ」
その光景を見て震え始めるネハ。
「そうか……そう言えばそうだったな!」
今度はアーシャを下ろし、
砂を両手で持ち上げると、
それを砂時計の様に少しずつこぼし始めた。
「ハハハハハッハハハハハ!」
はたから見ればかなりの奇行ではある、
しかしこんな同じ事を1万年も続けていれば、
ネハ以外は遅かれ早かれこうなるのかもしれない。
「見つける時はあっけないものだな。」
全ての砂をこぼし終えると、
ネハは大声で笑いながら砂の上に寝転んだ。
「今の私は観測者ではない、つまりこの世界に干渉出来る……なぜこんな当たり前の事を忘れていたんだ一万年も!私は全ての私の中で一番の阿呆だな!」
それからうつ伏せになり砂を噛み始めた。
「これが不味いという感覚か、観測するだけという立場に慣れて私はまだ一度も、世界に干渉していなかったのだな……。」
しばらく黙り込んで砂の上で丸くなるネハ。
その光景は悪く言えば歪で、
前向きな言い方をすれば、
この世を堪能しているようだった。
「さて、解決法は分かった、しかしだ!」
ネハは一段落ついたのか、
立ち上がり砂を払うと、
顎に手を当て首を傾げた。
「問題はどうやってこの壁を物理的に破壊するかだな。」




