観測者
しばらく白い何かはそんな事を繰り返していると、
思い出したように黒い何かに近寄り音を出す。
「そうだ!なによりまずは挨拶からだったな、私の名前はネハ、この瞬間の為だけに生まれてきた観測者だ、よろしく頼む。」
黒い何かはそれをじっと見つめ、
ただじっと見つめた。
「そうか魂が無いから何もわからないのか……はしゃぎすぎて忘れていたよ。なにしろ誰かに声を聴いてもらうのは初めてでな、舞い上がって気が動転しているんだ。」
そして落ち着いた白い何かが、
黒い何かに触れると……
「聞こえるか?今私から聞こえるこの音は、声……そう心の音だ。」
「……」
「何を言ってるのかはまだわからなくていい、しかし話しかけられてる事、私が君に想いをぶつけている事は分かるだろ?」
何かは理解した。
理解という概念を理解し、
自分の聞いている音が音では無いということを。
「……ギギギギ」
何かは思った、
声という名の心の音をもっと聞きたいと。
歩き続けて初めて思うという概念を理解し、
願望を持って身体に力を加え、
意識を持って考え願った。
「改めて自己紹介しよう。」
そう言って白い何かは、
全身を包む白いローブから手を出すと、
その手を黒い何かに差し出した。
「私の名前はネハ、観測……いや元観測者だ、よろしく頼む。」
その声を聞いた何かは今まで一度も使ってこなかった身体パーツを動かし、
必死に行動を起こす。
「わあたnamaえ/・ ・ ・ ・ ネ^-は/ネha……かんそぐじゃ」
何かはその声を必死に真似し、
差し出された手を時間をかけて、
しっかりと力強く握った。
「ゆっくりでいい、時間だけは無駄にあるからな。」
ネハは強く握られた手を、
もう片方の自身の手で包み込む。
その手はとても冷たく、
柔らかく、
何かの硬くて燃えるような手とは対照的だった。
「ギ・・ッギギギ……ねは」
そこから何も起こらずに38時間、
ネハは黒い何かに話しかけ続け、
黒い何かはそれを組み替えて復唱し続けた。
「ネハ……観測者……私自己紹介。改めて、分からなくていい、時間は無駄。君は私で心の音…・・・」
「そうだ、私がネハ。ちなみに時間は無駄ではないぞ。」
灼熱の砂漠で太陽に照らされて120時間。
強く握られた手は離されることは無く、
ネハもそれに答えるように言葉の投げ合いに付き合った。
「ネハ、手冷たい私、手熱い、身体、熱い。」
「そう君は熱い、これが熱いという感覚だ。そして私は冷たい、これが冷たいという感覚だ。 」
それから161時間程話した辺りで、
初めて何かは手の力を緩めた。
「私は人、ネハは元観測者で、ここは砂漠……砂漠が熱いのは太陽のせいで、私が熱いのは太陽のせい。なら、太陽、嫌い。」
「私も太陽はあまり好きではない、しかし君達をずっと見続けてきたのは私と彼だけだ、だからあまり邪険にはしないでやってくれ。」
「彼は太陽、邪険……分からない。」
「嫌いにならないでくれと言う事だ。」
何時からか会話が成立し始め、
分からないことは自身から聞くようになった何か、
ここまで来るともはや何かは何かではなくなっていた。
「自意識の構築に161時間か……まぁこれは観測開始してからは予想通りだな。」
ネハはそう言うと同時に何かの手を引いて、
そのまま腰に手をまわし優しく立ち上がらせた。
「思ったより軽いな、こればっかりは観測予想ではどうにもわからなんだ。」
二体が立つとその背丈は互いに変わらず、
黒いローブと白いローブが混ざり合うその光景は、
この何もない世界ではとても美しく見えた。
「では切もいいしここいらで君に名前を作らないとな。」
「名前、私の名前。ネハ、ネハがいい」
「それでは名前の意味がないだろう。」
嬉しそうに話すネハは、
何かをゆっくりとその白いローブで包み込み太陽から隠すと、
静かに頭の横でささやいた。
「君の名前はアーシャ、希望だ。この世界に色を取り戻す、最初の希望だ。」




