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砂漠の色  作者: savan
何かと何か
12/13

ブートストラップのパラドックス

それからしばらく、

どれだけたったかなんて考えたくもないほどに歩いた時、

ネハは突然口を開いた。





「……あれは。」



思わず私はネハ顔に視線を寄せると、

そこには何処を見るでもなく真下を眺めるネハがいた。




「蜃気楼か、幻覚か……また事象が歪んでるのか。」




「どうしたのネハ?」




ぐったりとして動かないネハ。

事象の歪みと言う事は……

恐らく特異点が近いと言う事だろうけれど、

私の見える世界はいつもと変わらなかった。




「アーシャ……私は今どこを見ている?」



どう考えてもネハの様子がおかしい、

息も浅くなり私によりかかるのでやっとになっている。



「ネハは今下を向いてるよ……大丈夫?なんか変だよ?」



「そうか……私は今下を見ているのか。」




訳の分からない事を言い続けるネハ、

私は何かすごく嫌な予感がして、

直ぐに足を止めた。




「はっはは、アーシャ……やっとみつけたぞ。世界の果を……。」



私は一瞬固まってしまった。

ネハが何を言っているのかを理解するのに数秒かかった後に、

言葉につまり自分の知っている言葉の中から最適なものを必死に探した。




「見つけた?世界の果てって、下には何も……。」



「2時の方角の地平線を真っすぐ見て、そして私の言葉を復唱してくれ。」



「わかったけど……。」



もう私にはネハが何を言ってるのか分からなかった、

世界の果を見つけたと言ってもそこには何もない。


ネハは地面を見つめて一体なにを見つけたと言うのだろうか……





「x0y0z0」



「x0y0z0」



「座標観測、解析、時間と座標を統合開始。」



「座標観測、解析、時間と座標を統合開始。」




私は言われるがままに復唱した、

だけど不思議なことにすらすらと言える……

何時か聞いたことがあるからだろうか?



「はは・・・はははは」



ネハの言葉を復唱して数秒後、

私は思わず笑いがこみ上げた。


それはこの何の変化もない世界を歩きつづけてきただけの私にとっては、

とても刺激的で恐ろしい光景で、

自分がいったい何を見ているのかが理解できなかった。



「アーシャ……君には何が見える?」


小さな声で話しかけてくるネハ、

私はその声を必死に拾い、

この壮絶な光景で返事を考える。


だけど私が口を開くよりも早く、

その現象が世界を壊した。



「空に白い柱が沢山、数え切れないほどに沢山……沢山!」



いままで真っ白に染まっていた世界に亀裂が入り、

世界が暗闇に覆われると、

一瞬にして新しい世界が私の前に現れた。


「ここが世界の果……。」



視界に映る光景は美しく、

太陽を中心に白い柱が、

無限の螺旋を描いて灰色の空を覆ってる。




「そうか……やっと着いたんだな。」


新しい世界が私とネハを出迎えるように風を吹かすと、

その瞬間空から一本の柱が落ちてくる。





「ッ!」



真上から巨大な白い柱が落ちてくるのを、

私は精一杯避けた。

だけど同時に転んでしまいネハを落としてしまう。




「ごめんネハ!大丈夫?急に柱が落ちてきてそれをよけなきゃでそれで……ごめん。」



私はただでさえ状態の悪いネハを落としてしまったことに焦って、

急いで近づくと、脱力したネハの上体を起こし、

ローブに被った砂を必死にはらった。



「大丈夫さ、それより私を……落ちてきた柱に近づけてはくれないか?」




脱力したネハの口から発せられる声は、

とても小さく聞き耳を立てないと逃してしまいそうだったが、

この雑音のない世界ではしっかり私の耳に届いた。




「わかった、柱の横まで連れてけばいいんだね。」



私はその言葉を聞くとネハを両手で持ち上げて、

柱の近くまで運んだ。


ゆっくり、

なるべく揺らさないように。



「ついたよ。」



私は近くまで来ると、

砂に突き刺さった柱の直ぐ隣に、

丁寧に寝かせた。





「ありがとう。」




ネハは小さな声で私に礼を言うと、

ゆっくりと柱に手をかざす。


私はその姿をただ見守り、

ネハは下から白い手で柱を撫でた。




その姿はいつか見た夢と同じようで、

その夢では真っ白な太陽の元で、

真っ白な砂漠の上を白い何かが踊っていた。



今のネハは踊っているという訳ではないが、

それと同じ様な神秘的な美しさがあった。


「……」



少しするとネハの手は止まった。




「あぁ……」



「なにか分かったの?」



私はネハが何をしていたのか気になった、

多分聞いても良く分からないのかもしれないけれど、

何となく状況を共有したかった。


しかしその質問に返事が返ってくることは、

無かった……。



「あぁあ”……」



「ど、どうしたの!?」



力の入らない足で必死に砂を蹴るネハ。


白い手で砂を握り、

それを柱に投げかけると、


アーシャの言葉を無視して、

ネハは頭を抱えて黙り込んだ。



「ネハ……。」





いつも冷静で、

頼りになって優しいネハの取り乱している姿を見て、

私は複雑な感情が芽生える。


そしてとんでもない悪寒がするとそれは、


現実になった。





「ネハ……私結局なにも……何も変えられなかったみたいだよ。」




私は驚いた……

厳密に言えばこの熱い砂漠で寒気がする程に気持ち悪くなった。



何が気持ち悪のかと言われたらそれは、


ネハが、

震えた声で自分自身に話しかけている、

この理解の範疇を超えた光景に吐き気がした。


自分でも何を言って言るのかよく分からなくなるけれど、

私はこの無限に広がる砂漠から逃げ出したくなる程の恐怖を感じ、

私と同じ話し方をするネハが一体何なのかわからなかった。




「……あなたはいったい誰?いや……何?」



直ぐに異常に気が付いた私は一歩引いた。

だけど、それを見ることなく、

その何かは私に話しかけてくる。





「おいでアーシャ、少し話したい事があるんだ。」




何かの話し方がネハに戻る、

それにまた恐怖を感じた、

もう何が何だか分からないのだ……


私は何が起きてるのかわからず、

ただひたすらこの状況に萎縮していた。



「ほら、心配しなくていい。面を取ってほしいんだがこの通り動けなくてね……。お願い出来るか?」



もう全く動けないのか、

ネハは私に面を取るようにお願いしてきた。



「うん……。」



私は恐怖を拭って、

辛そうにしているネハに近づいた。



一歩一歩、今まで歩んできたどんな長い道のりよりも、

重く、長い一歩を何度も繰り返して。




そしてネハの隣にしゃがみ込むと、

私はその真っ白な面に手をかけた。



「取るよ……。」



「あぁ……。」




ゆっくり、

螺旋状に浮かぶ白い柱と太陽に見守られながら、

私はネハの白いお面を取った。





「……これは、”何”?」




そこにはこの世界に存在しない何かがあった。



白でも黒でもない、

他の何か。


私にはこれがなんなのかが分からない。



黒い髪に黒い瞳。


その黒い瞳は太陽の光を飲み込むようで、

私もそれに吸い込まれそうになる。



そしてなにより肌、

私はこの肌を説明する答えを持ち合わせていない。



「はじめまして、そして久しぶり……私。」




その一言で、

私はこの何かが何なのか分かった。



「私……ネハが私……。」



そう、

ネハは私だった、

その事実に理解が追いつかず私は言葉が詰まった……


困った私が螺旋状に柱の浮かぶ空を眺めると、

いつものようにそれをネハがのぞき込んでくる。


今にも崩れ落ちそうな腕で地面を握り、

しゃがんでる私によりかかると、

私は私に話しかけてきた。




「大丈夫だ大したことは無い、ここで私が折れたら、私に未来はない。」




そう言い残し、

ネハはゆっくりと、

動かなくなった。



動かないネハは少しずつ固くなり、

熱くなると、

肌が白くなりひび割れた。




それを私が静かに抱きしめると、

落ちてきた柱は黒くなり、


ネハに熱を奪われるように、





私は冷たくなった。





「……」





不思議だった。

私は何も状況を理解してなかったのに、

何をすればいいのかは分かっていた。



ゆっくりと重くなったネハを砂の上に寝かせると、

私は手に持っていた白い面をつけた。



すると黒いローブは一気に白くなり、



何かだった私は、



観測者になった。




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