知りたい事
熱い、
熱い……
砂嵐が鬱陶しい!
なにより身体が重い、
砂を蹴り進むのが嫌になるほど足が重い、
なのに私の足が動き続けるのは何故なんだろう?
今すぐにでも立ち止まりたい、
前から倒れこんでこのまま動かなくなればどれだけ楽だろう?
私はそんな事ばかり考えてる、
だけど考えられないよりは考えられる方が幸せだ。
随分と昔の話になるけれど、
ネハという観測者と出会うまで、
私は生きていることに気が付いていなかった。
いや、
そんな状態は生きてる内に入らないのかもしれない、
実に私はそんな状態で1400年位歩いてたらしい。
しかも可笑しい事に何故かまだ歩いてる、
ちなみにそれらを理解したのは今から8万時間ぐらい前の事だ。
「ネハぁ……後どれくらーい?」
「さぁ何分私も行った事はないからな、そもそも9年しか歩いてないのだから、辿り着ける方が可笑しいとは思わないか?」
「えぇ! 9年もだよ! しかもずっと同じ景色だしこれほんとに進んでるの?」
「そう信じて歩いてる内は間違いなく進んでるさ。」
「なにそれ意味わかんない。」
「信じる事を止めると、止まってしまうと言う事だな。進んでいると信じてる内は歩き続けられるだろう?」
「やっぱり意味わかんない……。」
最近のネハはこんな調子で、
私が弱音を吐くと軽くあしらってくる。
少し寂しいけど、
私はネハと話したいからいつも理由をつけては話しかけている。
難しい事は良く分からないし言葉の勉強も大変だ、
だけど自分から聞かないとネハはなにも教えてくれない、
だから私はいつも分からないことを探している。
もしかしたらネハは真剣に答えてくれてるのかもしれないけど、
私には何処から何処までが冗談なのかが分からない。
「そうだ、たまには少し面白い事をしようか。」
「え?」
唐突な事に私は驚いた、
急に立ち止まったネハは少し離れてしゃがみ込むと、
砂の上に何かを書き始めた。
「なにをするの?」
「マルバツゲームさ。」
言うまでもなく私はそれを全く知らない。
だけどネハから持ち掛けてくる時は大概、
私でも理解できるような簡単なことだったりする。
だから滅多にない出来事を私は素直に喜んだ。
「こうやって線を引いて交互に書いてく、先に3つ並べた方が勝ちだ、簡単だろ?」
「えーっと、これってこうやって3つ並んでも勝ちなの?」
「もちろん斜めでも大丈夫だ。」
「斜め……これが斜めならこれとこれは?」
「それは縦と横だな、そしてこっちがマルでこっちがバツだ、できそうか?」
「もちろん!」
久しぶりの遊びだ、
前にやったジャンケンは一度も勝てなかったけど、
今回はなんとなく勝てそうな気がする。
「では先は譲ろう。」
だって三つ並べるだけだし!
‐‐‐‐‐‐‐‐
5分後
「……なんで、なんで?」
「フフッ。」
もうかれこれ5回は連続で負けている。
何で負けているのかが私にはさっぱり分からない、
しかもネハはさっきから鼻で笑ってるし……。
「さて、もう行こうか。しばらくは頭の中でやって、全部引き分けに出来る様になったらまたやろう。」
「えー……もっとやろうよ。」
「何事にも飽きはある、だからそれらの娯楽はどうしても辛くなった時の為に取っておくのさ。」
「またはぐらかす……。」
「そういうつもりはなかったのだが……では私と5戦連続で引き分けられうようになったら、次は五目並べを教えよう。」
「んー……じゃあちょっと練習する。」
やっぱり上手くあしらわれてる様な気がするけど、
そんな事よりも次にまた新しい遊びを教えてもらえることが嬉しかった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
最近の私は少し前に比べて良く話すようになってると思う。
ネハと会ったばかりの時の事はもうあまり覚えていないけど、
当時の私は会話に困ったら空を眺めていたらしい。
もちろん今でも空は眺める、
だけどいつ見てもこの世界に広がる空は、
私の知っている空とは少し違うような気がした。
「ネハ……今から変なこと言うけど聞いてくれる?」
「もちろんだ。」
私はネハの返事を聞くと、
聞きたい内容を整理して、
自分の知る言葉全てを使って質問をした。
「私この世界と違う世界を知ってるかもしれない。」
「……。」
するとネハはいつものようにすぐに返事をすることは無く、
歩きだすと、
「フフフッ」
嬉しそうに笑い出した。
ネハの笑い方はちょっと変だけど、
笑ってる時はもれなく嬉しい時だから、
見てる私も少しうれしくなる。
「そ……そんなに変な事言った?」
私は少し恥ずかしくなって、
笑うネハを追うように少し駆け足でついていくと、
ネハは振り向き、嬉しそうに私の手を取った。
「いいやその認識は正しい、恐らくそれは今から8万5422年前の色のあった世界の事だろう。」
「色?」
私はとても懐かしい単語を聞いたような気がした、
それはとても昔誰かが夢の中で教えてくれた言葉で、
凄く大切な……
「ちなみにアーシャは忘れてるだろうが、私は何度かその話をしている。」
「えぇっ?いつ!?全然覚えてない。」
全く記憶にはないけれど、
私は今と似たような質問をしていたらしい、
全く覚えていないというのだから笑える話だ。
「覚えてないのも無理はない、まだ会話もほとんどできない頃だったからな。」
「そっか……。」
どうやら本当に私は何度かその答えを聞いてたらしい。
なんだか複雑な気持ちになるけれど、
私は自分の見ている世界の違和感が、
偽物じゃないと分かって少し安心した。
「ではまず、色とは何かから教えよう。」
陽気に話すネハの声を聴き、
私はそれに喜んで返事をする。
「うん!」
きっとまだ知らない事だらけなのだろうけれど、
私はまた一歩ネハに近づけた気がした。




