第82話 総裁登場
「ルイだけでも生きて欲しいんだ。俺はどうなってもいいから。君だけは・・・。」
「待って!イヤよ!私、そんなの。私を一人にしないで!死ぬなら一緒に。」
「そんなこと俺はして欲しくはない。君には生きて欲しい。」
「嫌だったら。」
ハルはそんな二人を見ることがこらえきれず一歩近づいた。
そしてそのまま鋼線の隙間に両手を突っ込んで二人の手首を握った。
「何で二人で生きようって言わないんですか!」
これまで出したことのない大声だった。
「なんで・・・生きようとしないんですか。ミツさんや、構成員になるときに奪った仲間の命の分まで!」
二人はハルをただ見つめていた。
「私も生きたいって思い始めたのは最近です!それまでは、前言ったように・・・一緒に育ってきた大好きな大切な人を失って、一人で生きるぐらいなら一緒に死ねばよかったって毎日悩んで。生きていることが苦痛で・・・。自分は死ぬって暗示みたいに思い込んで・・・でも、死ねない。死ねなかった!」
感情が高ぶったハルから涙が落ちた。
「ミツさん、言ってたじゃないですか付き合ってたときの二人見てたらこっちまで幸せになるって。好きな人が生きてたら人生輝くって!あの人は、あの人は敵に情報を流してたけど、その見返り何だか知ってますか?」
二人は顔を見合わせた。
「三人で国外に逃げることです。一人だけじゃなくて、三人で逃げて・・・。三人で幸せになろうとしたんだと思います。だから二人は生きて下さい!幸せになって、あの人を喜ばせてあげてください。」
するとルイはハルの手を強引に引き離し、コウの手を握っていたハルの手をねじり突き飛ばした。
「わ!」
突然のことによろけて鋼線に触れそうなハルの体をトウヤとルカの腕が引き寄せた。
「随分知った口叩くじゃないの。」
「ルイさん!」
するとルイは微笑みコウの手をそっと握った。
「ルイ?」
コウが次に見た顔はルイが幼い頃見せていた屈託のない笑顔だった。
コウは唇を噛んで、その手をギュッと握った。
「手を握るの・・・七年・・ぶりだね。」
ルイは恥ずかしそうにコウに呟いた。
「ミツ・・・本当にお節介なんだから。でも自分だけ逃げようとしてたんじゃなくて三人で逃げようとしてたのはすごく嬉しいわ・・・。やっぱり仲間だったのね。私たち。」
「ああ、アイツは『静』のアタッカーだ。アイツがどんな困難も切り開いてきてくれた。いつも・・・どんなに危なくても。」
ルイはそのままこらえきれず膝をついて泣きじゃくった。
コウはそんなルイの体を力いっぱい抱きしめていた。
ハルはそんな二人の前に跪いた。
「ごめんなさい!偉そうなこと言ったけど私のせいでミツさんが死んじゃったんです。私が暗部に見られてることもっとちゃんと分かってれば・・・。」
「それは君のせいでないよ。情報を流したあいつが悪い。たとえどんなことがあってもそれはやっちゃいけないことなんだ。」
「ちゃんと私たちがミツを止めればよかったことなの。いつか起こるべくして起こったのよ。」
「ルイの言うとおりだよ。それに君はあんな無関心な世界でミツの体を拾ってくれた。正直・・・あれは嬉しかった。ルイだって年下の君と出会えて君を気にかけるようになった。君は三人しかいなかった俺たちの世界に入ってきてくれた。・・・ありがとう。」
コウは腕の中にいるルイの頭を優しく撫でながらハルにも微笑みかけた。
「あの男は暗部が前々から目、つけてたから・・・ハルのせいじゃないよ。シギにだってあの男の面は割れてただろうしね。」
「でも!」
「人が死んだの又自分のせいにしやがって。」
それでも自分を責めようとしたハル頬をルカはつねり、ハルの頬が横へと伸びた。
「話は終わったのかい?」
声がして皆、現実に引き戻された。
奥へ伸びた暗い道から女が姿を現した。
金色の巻き毛に強さの宿る青い瞳。
誰もがその存在感に黙り込んだ。
「おばちゃん。あの、話が・・・したくて。」
しばらく黙り込んでいたハルが踏ん張って声を出すのを見てバネッサは鼻で笑った。
「一体何を?」
「いろいろ・・・。」
「だから何?昔から貴方は要領を得ない話し方だったわね。小さい頃ならまだしもいい年をして・・・苛つくわね。いいわ。」
バネッサは静かにハルを見ていた。
「ハル。奥に来なさい。シギ、他の奴ら放してやりな。他の奴らも攻撃はいいよ。待機だ。」
トウヤの手が自分を止めようとした。
その手を愛しそうに両手で包み込むとハルは笑顔を向けた。
「・・・大丈夫、行ってくるよ。」