第73話 情誼
第九章 情誼
息をしようとすると喉が焼け付き、目を開けるとまず見えたのは白い天井だった。
左肩と足にありえない痛みを感じ小さく呻いた。
「お、ハル?起きたのか?」
目に入ったのは口にポテトチップをほうばったルカだった。
そして左からトウヤが微笑みながら覗く。
「ハル・・・。大丈夫?」
微かに頷くと二人はお互いの顔を見て笑った。
そしてルカは右を見て何かを言った。
ハルもつられて右を見た。
すると包帯を頭に巻いたソウマが自分を見ていた。
ソウマは目があうとトオルとつないだ手を軽く振って笑った。
視界の端にシギが息を吐くのが見えた。
「皆・・・。」
皆がいる。
その光景がとても幸せだった。
「生きてて・・・よかった。」
涙が溢れた。
「あたりまえだ!」
ルカもこみ上げてきた涙を袖で拭くとハルの頭を撫で声を張り上げた。
「私、九日間も眠ってたんですか。」
ええ・・・。冷たかったら言ってね。」
ハルの背中を温かい綿布が優しく撫でる。
アヤはハルの体を拭きながら、傷の多い肌を見て悲しそうな目をした。
「傷が残ってしまうらしいわ。」
「・・・傷なんて・・・気にしてません。」
「そう。ねえ、貴方を育ててくれた人ってどんな人?カイクは可愛がってくれた?」
「メンターですか?・・・昔は毎日一緒に寝てましたけど、私が訓練生になってからは厳しくなって・・・。」
「あの人が一緒に・・・。」
アヤはその言葉に嬉しそうに微笑んだ。
「でも、今思うとあのメンターが一緒に寝てくれてたっていうのも今じゃ信じられませんけど。」
ハルは一瞬見えた微笑むアヤの顔に驚き、それとなく質問した。
「あの・・・カイクと・・・お知り合いですか?」
「昔・・・ね。」
「そうですか・・・。」
ハルはそのまま黙った。
このお嬢様とメンターに何処でどういう接点があるのか全く理解できなかった。
アヤはただハルの背中をずっと布で撫でていた。
「母・・・代わりの人はどんな人?」
「・・・私の憧れです。強くてカッコよくて。」
それしか言えなかった。
自分を暗部を使って殺そうとしたのは育ての親、バネッサ。
けれど彼女は自分の目標であり愛する人だった。
あんな目に合わされてもまだ大好きだった。
むしろ彼女がそこまで自分を憎むのなら自分に非があるようにしか思えなかった。
自分が生まれたことこそが彼女にとって罪悪なのかもしれない。
ふとあの夜のことを思い出した。
自分を憎い女の子と叫んだ。
(ということは私の親を知ってる?)
ハルはバネッサの憎む女を思い出した。
バネッサから悪口を聞いたのは後にも先にも一度。
今、自分の体を拭いている女性だけ。
(まさか・・・。)
答えに至ると緊張のあまり喉が渇き、手のひらと足の裏に変な汗をかいた。
恐る恐る振り向く。
目が合うと優しく微笑むアヤ。
(この人が・・・お母さん?まさか?)
偶然だと思い込もうとした。
(でも、じゃあ、何でこんなことしてくれるの?前まで、あんなに冷たかったのに・・・まさかこの人は私のこと知って・・・?)
ハルはたどり着いた答えがあまりにも腑に落ちず、布団を握り締めた。