第7話 任務その壱の弐
後方を守っていたソウマの頬を何かがかすめた。
矢だった。
それが合図だったのか次々と矢が撃ち込まれ、その音や衝撃に馬が驚き暴れるのを密輸部門の男は慣れた手つきで落ち着けた。
「後は頼んだぞ。」
そして一言だけ残して、護衛三人をみることもなくすぐに馬車を戦闘区域外へと連れて行った。
「こんなところでも検問してたんだねえ。」
「これは検問ではないですよ?私たち何も質問もされてませんし。」
「質問されても結局攻撃されてた気はするけど?」
三人は馬車を援護しつつ、木の裏に隠れた。
ソウマが木から少し顔を出し、矢の撃たれる方向をほんの一瞬見上げた。矢は崖の上から射かけられていた。
「弓を射ているのは全部で八人、左五、右三。ハルできますか?」
「もちろんだよ、信用してよね。」
ハルは外套の下から白と黒の銃を出した。右手に握る白い銃は掌に収まるほど小さく、逆に左手の黒い銃は少女が扱うには妙に大きなものだった。
そしてその銃の射程距離、威力を知り尽くしたハルは崖の上の敵に向かって左右三発ずつ撃つと、すぐに木の裏に戻った。
一瞬後、ハルが姿を見せていたところに数本の矢が刺さった。
「あと、左二、右一。」
「おや、珍しい、・・・一発外したんですか?」
「うん、一人に二発あてちゃったんだあ。」
「それも薬のせいですかねえ?」
「かなあ。」
ソウマは木の裏から体を出すと、袖の下から鋼鉄製の銀色に輝く六方手裏剣を四枚取り出し敵へと投げつけた。
その手裏剣は鍛えられた目でもかすかに追えるかどうかの速度で回転をかけながら崖の上の男たちの首に刺さった。
「来たんじゃありませんか?」
ソウマは自分の成果の確認もせず次の工程に意識を集中させていた。
射手を失った敵の新たなる攻撃。
どこからか別の足音が迫ってきていた。
それは三人の耳にしっかり聞こえていた。
「来た。」
「じゃ、ここは彼に任せましょう?後ろでウズウズしてると思います。」
「だよね。」
ソウマとハルは同時に、後ろで鞘から剣を抜く男に目をやった。口には笑みを浮かべていたが目はもう獲物から外れることは無い。
「よっしゃ、やっと俺の出番だぜ!お前ら、チマチマ辛気臭いんだ。」
ルカは相手の姿が見える前に、相手めがけて走り出していた。
「好きだね。ルカは実践。」
「ええ。昔から。本能で戦う人間ですから。」
「脳みそ・・・無いんじゃないの?さて・・・。」
ハルは腰にぶら下げていた長距離用の自分の背丈三分の一のライフルをルカが消えた森の中へ向けて構えた。
「おらあ!」
ルカは顔に笑みを浮かべ、先に紅い珠の飾りのついた刀を抜いて迷彩服を着た軍人達に斬りかかった。
瞬時に三人を斬り捨て残りの者達をギラギラ光る目で見据えた。
男達はその目に一瞬ひるんだものの、すぐに剣を持ち直しルカに斬りかかった。
が、その者達はルカの後ろから撃ち放つハルの銃弾に倒れた。
「退けっ!」
数が半数以下になったところで悲鳴のような声がした。
三人はそれぞれ射的に崖の上を見た。
そこにいたのは白の軍服の左右に金色のラインの入った軍人だった。
ハルは目を隣に立っていたソウマに移す。
「白服に金のライン。あの人は、神の・・・御剣ですか・・・ね。」
「私たちの天敵だよね・・・。初めて見た。追う?」
二人は新たな玩具を見つけたような顔になっていた。けれど、ソウマは残念そうに首を振った。
「いいえ、任務を優先させます。先に進みましょう。」
敵の気配がなくなると管理部門の男は森の中から姿を現し、ソウマの報告を聞きながら軍人の死骸を確認した。
「神の御剣までいたか・・・。それならばいくつかの隊が壊滅するのも分かるな。」
「ええ、今の敵襲はほとんどが軍人でしたが、率いているのは神の御剣のようですね。」
「厄介なもんだ。しかし、さすがカイクの教え子だな。あいつが怪我をして第一線から離れたときは残念に思ったが・・・。」
男はそういうと手綱を握った。それを見て三人は先ほどと同じ配置についた。
「見たかったなあ。メンターの現役の姿。かっこよかっただろうなあ。メンターにおばちゃん、同じチームにいたら強いよねえ。」
「ああ、組織始まって以来の最強チームだったな。お前らもそうなれよ。」
「もちろんだ!俺らが組織ナンバーワンだ!」
ルカが一番前で大声で叫ぶと声が山を反響し響いた。するとルカの頬を手裏剣が掠めた。
一番後ろを守っていたソウマの笑顔が崩れることが無かったが、声は冷たかった。
「静かにしてもらえますか?」
「はい・・・。すいません。」
「さ、急ぐぞ。」
四人と一頭は次の合流点までの道のりを先ほどよりも少し速度を上げて進んみはじめた。