第61話 思い描いた夢
何年も通りなれた寺までの道は通行止めになり、軍人がバリケードを築いていた。
「どうする?」
「もう完全に堕ちたな。・・・戻ろう・・・。」
二人は街中へ戻った。
まるで王城で起こったことに関心がないかのような若者が町に溢れていた。
「お昼ご飯食べる?」
「そうしようか。」
「だったらね行きたい店あるんだ。」
ハル目を輝かせ急い手を引いた。
迷うことなく店に入るとハルは嬉しそうにメニューを見てパスタを指さした。
「ここね、よく三人で来たんだ。すっごくおいしいの!本格手作り麺!」
「そっか・・・。」
「そう、私はここのたらこクリームで、ルカはペスカトーレで、ソウマは、ラザニアで、」
「俺、カルボナーラ。」
するとハルは顔を上げた。
「だろうと思った。」
「え?」
「だっていつも私、たらこクリームかカルボナーラで迷っちゃうし、きっとおんなじ味覚のトウヤは同じもので迷って、違う方頼むと思ってたんだ。そしてら半分こできるしね。」
「流石、ハルだね。」
「でしょ?私はトウヤ博士なんです!」
「で、どうする?気付いたろ?」
「目印・・・だね。」
組織のものが非常時に連絡用として使うアジトの側の木下には暗号用の五色米が置かれていた。
「アレから考えれば大体組織の位置は分かるけど・・・俺はもう少し様子を見たい。」
「ばれて・・・攻められるかもしれないから?」
「それもあるし・・・。」
誰が組織を仕切っているのか。
総裁ならばハルを殺す。
守る自信はあるが、今は余計な揉め事は起こしたくなかった。
「どうしたの?」
「ううん。あ、来たみたいだ。」
運ばれてきたものを見て笑顔を向けるとハルも微笑んだ。
「いっただっきまあす!」
「いただきます。」
「おいしい。はあ、生き返る〜。」
『二人で街に出てご飯を食べる。』
ハルがずっと願い思い巡らせてきた時間。
「一口頂戴。」
「一口で済むの?」
「済まないよ。」
ハルは嬉しそうにフォークで麺を絡めた。
「あ、トウヤ。こっち。」
「はいはい。」
フォークを伸ばすとハルは微笑んだ。
そして思いついたように口の端をあげた。
「はい。あ〜ん。」
「え?」
「ね?あ〜ん。」
トウヤは周りを見渡してからハルのフォークをくわえた。
「おいしい?」
「ん。」
「じゃあ、私もして。ほら。」
ハルの口に入れると嬉しそうに笑った。
「こんなことしてる奴馬鹿だと思ってたけど、楽しいね。」
「俺恥ずかしいから・・・。勘弁してよ。」
「え?そう?」
ハルはそんなトウヤと過ごす時間を本当に嬉しく、愛しく感じた。
その夜、トウヤは機械を修理し、ハルは帰りに買った双眼鏡で城を見ていた。
「結構損壊激しいね。」
機械からはガガガというノイズしか聞こえなかった。
「無理!」
トウヤは電源を切ると寝転んだ。
「おばちゃんが心配?」
ハルはトウヤの寝転んでいる側に座った。
「いや、情報がほしい。それに、あの人は結構強いから大丈夫だと思う。」
「だよねえ。憧れるなあ、おばちゃん。強くて綺麗で、優しくて。いいなあトウヤはあんな人がお母さんで。」
「・・・ハル。」
トウヤはハルの頬に触れる。
「ん?」
「ハルには俺がいるから。心配しないで。俺が守るから。」
「うん。心配なんてしてないよ。」
ハルが穏やかに微笑むとトウヤも笑顔を作った。
「ハル。大好き。」
「私も・・・大好き。トウヤ・・・。」