第60話 勝負下着
「ただいま!」
ハルは暫くして頬を赤く染めつつ、紙袋をたくさん下げて戻ってきた。
「ズボンのサイズわかんないから、ルカとおんなじくらいのサイズ買って来ちゃった。あのね、お店に行ったらね、トウヤに似合いそうな服あったんだよ。衝動買いしちゃった。肩幅大丈夫かなあ?」
そういって黒い細身のジャケットを広げた。
「お店の人に彼氏さんの?ってきかれて思わずハイって言っちゃった。」
ハルの頬の紅潮の理由はそれだった。
「なんかさあ、『彼氏さん』って響きいいねえ・・・そんな言葉に自分が頷くなんて思いもしなかった。」
「これからそんな言葉掛けられるの当たり前になるよ。」
トウヤはそう言って青い目を細めた。
「うん!」
満面の笑みを浮かべたハルは紙袋からいろいろなものを取り出し、最後に数社の新聞を取り出した。
「新聞も色々買ってきたよ。読む?読んだら後で教えて。私、お風呂入ってくるから。」
「うん。わかった。」
トウヤは小さな赤い紙袋に目を留めた。
「ん?・・・これは?」
「これはダメ!これは自分へのご褒美なんだから。」
「ご褒美?」
「本当はルカに買わせたかったんだけど。」
「ルカに?何?」
「内緒だもん!」
「何だよ。ルカに言って俺には言わないの?」
「う・・・。そうじゃないんだけど。・・・これは女の子として特別なものだから。だめなの!」
そういうと紙袋を持って風呂へと直行した。
それは可愛い下着だった。
今までつけてきた色気のない下着ではない。
白いフリルのついた薄桃色の下着だった。
「こんなのつけられると思ってなかった。これって幸せなんでだよね・・・ねえ、ルカ。」
トウヤはハルのシャワーの音を聞きながら新聞に目を通す。
組織に暗殺されたはずの国王の健在振りがアピールされていた。
「いつまで国民を騙す気かな。どうせ後で病死とでもするんだろうけど。」
トウヤは次の記事に目を留めた。
「賓度羅壊滅・・・?」
記事には寺が破壊されその上を神の御剣が検証している姿が載っていた。
「・・・爆破・・・したのか・・・。」
トウヤは次々に新聞を手に取った。
どの新聞も王城の被害状況に触れず、軍や神の御剣の功績に紙面を割いていた。
「トウヤ、ごめんね。長かった?」
「うんん。」
シャンプーの匂いをさせたハルはトウヤの側に顔を近づけた。
トウヤの開いていた紙面はハルにとって驚愕の事実だった。
「え?壊滅?ちょっとなんで?ルカは!メンター、おばちゃんは?」
そう言ってトウヤの新聞をもぎ取ると、トウヤに詰め寄ろうとした。
けれどトウヤは視線を合わさずシャワーへと向かってゆく。
「そんな・・・壊滅って。ルカ・・・逃げ切れた?ねえ・・・ルカ。」
そうなるとじっとするなんてできなかった。
「ねえ、ねえ!」
暫くしてハルは勢いよく扉を開けトウヤの裸を見て固まった。
「わ、あ、ごめん・・・。」
ハルは慌ててトウヤの裸体から顔を背ける。
「何?今更照れてんの?昔から散々見てきたのに。」
「違うの。もう!全然違うの!トウヤのいぢわる・・・。」
ハルは顔を赤らめてトウヤから目を反らしたまま声をかけた。
「あのね、あの。アジト行ってみる?」
「行きたいの?」
「うん!誰かいるかもしれないし。ルカ残ってるかもしれないし。」
「じゃ、そうしよう。けどハルはルカが好きだね。」
「え?だって・・・チーム・・・だから。」
「分かったよ。行くから。でも体だけ洗わせて。」
「うん!じゃあ、支度して待ってるね!」
ハルは嬉しそうな顔で出て行った。
「ちょっ!扉くらい閉めてよ・・・。ま、いっか。」
一方、トウヤは悲しそうに呟いてシャワーを上から降らせた。