第54話 ハルとトウヤ
水からすぐに出た二人は、今度は寒さに震え、小屋へと急ぎ足で戻った。
「寒い!寒い、寒い!」
ハルは家の中で着火装置を探そうと起きたまま抜け出した外套に手を伸ばし、止った。
昨日握りながら眠ったルカからのプレゼントがそこにはあった。
(蝶だ・・・。めちゃくちゃ可愛い・・・。ルカ・・・これ、どんな顔して買ったのかな?)
真ん中にダイヤが埋め込まれていたルビーで出来た蝶。ルビーの濃い紅がルカを思い出させて、無性にルカに逢いたくなった。
「どうしたの?」
「うんん。」
箱に戻して振り向くと、トウヤの手にマッチが用意されていた。
「早く!寒いよお!」
「はいはい。」
トウヤは手際よく外においてあった木に火をつけた。
ハルはまだ種火に近い火にあたりながら横に座る男をじっくり眺めた。
「ん?」
「カッコよすぎ。」
「ハルはかわいすぎ。」
そう言って瞼に口付けられてハルの顔は赤くなる。
ハルはそのままトウヤの体に顔をうずめた。
「この匂い大好き。」
「え?何?臭い?」
「ううん。何か隣にあると安心する匂い。トウヤの匂い。」
「ハルは犬みたいだ。」
「何それ?超失礼。」
「可愛いってことだよ。」
ハルが赤面するのを見てトウヤはハルの顔を上げさせた。
軽く唇に唇が触れる。トウヤの熱い息がかかった。
(トウヤが生きてる。息して、喋ってる。)
そう思うと涙がこぼれた。
「泣かないでよ。」
頬を落ちた一粒の涙を唇で吸ってトウヤはもう一度唇を重ねた。
目を閉じお互いの体温を感じあいながら、舌を絡ませる。
はじめはぎこちなかった二人も次第にお互いを求めるようになった。離れてもすぐにお互いを求めどちらからともなく口付け合う。
トウヤはハルに優しく触れた。
「っつ・・・。」
手が矢傷に触れ、ハルは悲鳴を漏らす。
「ごめん・・・。」
「ん、大丈夫・・・。」
ハルは傷のある肌を見せることがこんなに恥ずかしくて、みっともないと思ったことはなかった。
トウヤは手を取って、ローズクオーツのブレスレットに口付けた。
「これ、ずっと、持っててくれんだ。嬉しいな。・・・あと・・・ごめん。これ・・・。」
トウヤは心臓の上にキスをする。
少しはだけた服から見えた小さな傷。
ハルに紅い着色料と麻酔銃が撃たれた跡は小さな血の塊になっていた。
その時のことを思い出したハルの頭にルカが浮かんだ。
自分を助けようとした必死の形相だった。
(ダメ、今ルカのこと考えちゃ・・・。)
「ハル。」
呼ばれて顔を上げると唇が触れた。
「トウヤ・・大好き。」
「うん。俺もハルに・・・。やっと触れた。」
次第に目の前にいるトウヤでいっぱいになっていった。