第51話 枕元
トオルは父親に付き添われ集中治療室へと入った。
患者の頭は包帯で巻かれていた。
「右腕が吹き飛びました。体も熱で溶けている場所があります。頭は強く打っているようで・・・危険な状況です。」
医者の言葉に父は静かに頷いた。
トオルは医者の話を聞いて立っていることが出来ず、震えてその場にしゃがみこんだ。
「ソウマさん・・・。ソウマさん!ごめんなさい!」
「トオル・・・。」
父親は娘の肩に手を置いた。
「あの子はここにいるの?」
部屋の外から女の声が聞こえた。
「お母様・・・。」
アヤは手当てを受けるソウマの姿を一瞥するとトオルをつれて部屋から出た。
「・・・怪我は大丈夫なの?」
「ええ・・・。少しズキズキするけれど・・・。」
「そう・・・。安心したわ。あの時お城へ行くのを止めていれば・・・。」
アヤは娘を抱きしめ撫でた。
「入院は必要ないそうね。さあ、帰りましょうここはは危ないからしばらく別荘にでも・・・。」
「待ってお母様。」
「どうしたの?」
トオルは母から離れると部屋の扉に手をかけた。
「私・・・ソウマさんのそばにしばらくいるわ。気が付いたときにそばにいたいの。」
「ソウマって?」
「あの・・・。」
「トオルを助けてくれた。自分を盾にして。」
「お父様。」
「そうなの・・・。貴方の部下にも・・・。」
「いや、彼は賓度羅だ。」
「何ですって?」
アヤの顔が見る見る青ざめてゆく。
「どうしてそんな男が!」
「私ソウマさんが好きなの!だからそばにいたいの!」
「貴方は騙されてるだけよ!あんなやつら平気で人を裏切るんだから!」
アヤはトオルの手を掴み、体を揺すった。
「帰りましょう!」
「いやったら!私はそばにいたいの!」
自分の言うことをきかない娘の頬をアヤは思いっきり叩くと手をひっぱった。
「よさないか。アヤ。」
「いいえ。あとで後悔することになるのよ!あの時親の言うことを聞いていればって!一生後悔するの!」
「そんなことないわ!」
「とにかく王子様のお見舞いに行きましょう。王が崩御なさった今こそ、早く王子との婚約を取り付けなければ。」
「いや!」
尚、引きずる手を父が掴んだ。
「いい加減にしないか!」
「貴方には分かりませんよ!傷つくのは女なんですから。」
「トオルには聞きたいこともある。私がそばにいる。君は帰りなさい。」
「お父様。」
「いいえ!連れて行きます!」
「いいから帰りなさい!」
自分より立場の強い妻を怒鳴りつけた夫はトオルを部屋の中に入れて鍵を閉めた。
トオルは驚いてそんな父の顔を見つめた。
「お父様。家に入れてもらえないのでは?」
「そのときは謝るさ。でも、今はお前のほうが辛いだろ?」
「お・・・父様。」
トオルは父親に抱きしめられながら声を上げて泣いた。