第43話 過去の真実
『隊選抜試験を二日後に執り行う。武器・道具など準備をしておくように。尚、試験内容については当日その場にて伝える。』
五人は緊張した面持ちで並んでいた。
それぞれの頭の中には知力、体力、技術力それぞれの上位者が浮かび上がっていた。
『三人が受かるんだろ?あとの二人はどうするんだろうな?食事番か?』
ルカが茶化すとトウヤもそこに乗った。
『いいじゃないか食事番。ルカやれよ。』
『ルカは知力でダントツ最下位ですからね。』
『体力と技術力なら負けねえぞ。ハルが危ないんじゃねえのか?お前三角頭巾かぶって食事係やれよ。』
『え・・・?』
ハルは勝てる自信なんてなかった。
むしろこの五人で勝負なんてしたくもなかった。
『それでも、いいかも。皆のお弁当作ってあげるから。』
『お前ら馬鹿か?』
シギの言葉が皆の動きを止めた。
『何がだよ!』
ルカが顔を赤くして掴みかかる。
『むしろハルが一番戦力なんだよ。男を落とすための武器としてな。』
『落とすって・・・どういうこと?』
ハルは心配そうにシギを見る。
けれどシギはそれ以上何も言わなかった。
その後ハルは昼食後の自由時間に図書室で本を読んでいた。
『ハル?』
『どうしたの?トウヤ。』
図書室には二人しかいなかった。
『ん?』
『いや、いいや。』
トウヤは持っていたものをポケットにいれるとハルの隣に座った。
『俺頑張るからさ。試験。』
『私だって頑張るよ。』
『これからも俺とハルはずっと一緒にいようね。ずっと、ずっと。』
『うん。そうだね。ずっ〜と。トウヤとは生まれたときから一緒だし。離れるなんて考えたことなかった。そんなの、イヤだもん。』
ハルの頬は紅くなっていた。
トウヤもその言葉を聞いて笑いをかみ締める。
『ハル、俺とさ、あの・・・。』
『よお!二人とも食後のプリン食おうぜ!』
いつも空気を読まないルカの出現にトウヤは話を止めた。
『トウヤ?』
『いや、あとでいいよ。』
『そう?』
ハルはルカからプリンを受け取るとため息をついたトウヤを見ながら口をつけた。
『ねえ、さっき言ってたのどういうこと?』
目を閉じて気を集中させていたシギは邪魔が入り嫌そうに目を開けた。
『お前は自分の体を餌にして男を操ることになるってことだ。』
『体?』
『ああ、好きでもない男と寝て・・・。』
『それが私の使命・・・?それが?』
シギはそれ以上何も言わなかった。
ハルは部屋へ戻るとルカと術の稽古をしていたトウヤを何を言うこともなく見た。
『ん?』
『うんん。なんでもないよ。』
『そうだ、ハルちょっといい?』
トウヤはルカを置いて部屋を出た。
何処へ行くともなく散々歩き、結局辿り着いたのは二人で星を見た場所だった。
トウヤは昼間渡すことの出来なかったブレスレットを緊張で汗ばんだ手に握った。
『あの・・・昼間の続き。』
『うん?』
『あの・・・。』
ハルは首をかしげる。
するとトウヤは目を閉じて叫んだ。
『将来、俺と結婚してください!』
『え・・・。』
『俺ずっとハルが好きだった、物心ついたときからずっと、ハルの笑顔見てきた。だからこれからもずっと側にいて笑ってて。』
ハルははじめは目を丸くして言葉を失っていたが、その内唇を噛んで何かを堪えていた。
『じゃあ、私が誰と寝ても許してくれる?』
思ってもいない言葉にトウヤは止まった。
息をすることすら忘れていたのかもしれない。
『トウヤ以外の人と毎日そういうことして、トウヤと一緒にいられなくても許してくれる?きっと、私は笑ってられない。』
トウヤからの返答はなかった。
きっと昼に気持ちを伝えてくれていれば自分は間違いなく頷いていた。
けれど、シギに脅され頭の中はその嫌悪感で一杯だった。
『そうじゃなかったら無理だよ。ごめんね。』
その場に立ち尽くすトウヤだけを置いてハルは部屋へと戻った。