第42話 総員退避
「杭全滅、推全滅、静二名生存、醍一名生存、笈全滅・・・。」
全てのメンターが集まった部屋で状況が伝えられてゆく。
誰もが何も話さない。
最後に若い隊が名を呼ばれた。
「宵全滅、戒全滅・・・以上だ。」
「六十人近くいた構成員のうち生き残ったのは二割だと・・・?」
「これからどうするんだ!」
「我々は・・・。」
カイクは雑談ともいえる他のメンターに加わることなく黒い扉を開けた。
部屋は先ほど弟子たちが出て行ったままになっていた。
「全滅・・・。」
その一言だった。どんな風に最後を迎えたのか何も分からない。
『この子名前何にする?』
トウヤを抱いたバネッサが横から覗いた。
『名前?俺が決めるのか?』
『カイクが拾ってきたんだ。あんたがつけてやりな。』
『じゃあ、ハルだ。』
『早いねえ。でも・・・可愛い名前だ。』
『ハル。』
名前を一度呼ぶと小さな小さな手で自分の人差し指を握ろうとした。
壊れた馬車の中で捨てられていたハルを見つけた時、ひたすら泣いて手がつけられなかった。
怪我をして全てを失った自分が得た大切なものだった。
そして夫を亡くし、乳飲み子を抱えるバネッサに育て方を教えて欲しいと頼んだ。
『珍しいね。明日は槍がふってくるよ。』
そういいながらバネッサはその子にキスをした。
そして志願してメンターになるまで毎日その子の隣で眠った。
やっと話せるようになった頃二人で動物園に行った。
ハルは自分の教える動物の名を繰り返しながら嬉しそうに笑っていた。
その夜眠りながらお土産に買った熊をずっと笑いながら握っていた。
「・・・ハル・・・。ルカ、ソウマ。」
ただその場で小さく呟いた。
そのすぐ後だった。
突然サイレンが響き、地鳴りがした。
外で銃声が聞こえた。多くの喊声も聞こえた。
カイクは部屋を出て司令室へと入った。
「何事だ!」
「軍からの攻撃です!」
若いオペレーターが答えた。
再び地鳴りがしてかすかに砂が落ちてきた。
司令室には数々の情報がすぐに持ち込まれた。
「第二居住区から軍が侵入。敵、数五百。」
「さらに軍、東より侵攻中。」
若いオペレーターはカイクの顔を見た。
彼にとって英雄とも言えるカイクが最も頼るべき司令官に思えた。
「総裁は?」
「わかりません。」
更に後ろに座っている老人までもがカイクの顔を見た。
「ったく、俺はただのメンターだってのに!第二居住区爆破しろ!尚、総員退避!三分後ここを爆破する!」
若いオペレータの声でカイクの指示が伝えられ別の男が第二居住区を爆破した。