第41話 全滅
シギは口の端を持ち上げ嫌な笑みを浮かべていた。
「ソウマはどうした。どこに隠れた?」
「・・・建物の下敷きになったんだよ!」
シギの眉が少し動いた。
ハルはそれを見逃さなかった。
それはかつて自分と共に生きようとしたシギの顔に違いなかった。
それでも再び口の端を持ち上げ、はき捨てた。
「・・・トオル様を騙した罰だ。」
「そのトオルも一緒に下敷きだ。」
神の御剣に動揺が起こった。
すかさずシギが叫ぶ。
「お助けしろ。どこだ?こんな鼠よりトオル様だ!」
ハルは瓦礫の山を指差した。
神の御剣はシギ一人を残してそこへとむかっていった。
「お前は行かないのか?行けよ。」
ルカが馬鹿にしたように笑う。
「お前らを始末してからでも間に合う。」
そのシギの言葉にルカは刀を構えた。
途端、
赤い閃光が暗闇を裂いた。
空へとのぼり、やがて光を失った。
任務が完了した合図だった。
ハルは少し気を抜いてルカの袖を引いた。
「終わった・・・。行こう!帰ろう!」
「まだだ!こいつを殺してから行く。」
「殺せるのか、お前に。お前に負けたことはなかったがな。」
「やってやるさ!」
ハルは嫌だった。
これ以上仲間の誰も死んで欲しくなかった。
力いっぱいルカを引く。
「止めてよ。もう止めてったら!」
「うるさい。お前黙ってろ。俺はトウヤのためにもこいつを殺す。」
ルカの直情的な性格をハルは充分知っていた。
言っても聴いてもらえないのなら実力行使しかない。
「だめ!絶対ダメ!。」
ハルは自分の銃を頭につけた。
「戦うって言うなら、トウヤのところに行く。いいね。シギも!」
「ハルは黙ってろ!」
「そうだ、お前は下がってろ。」
「やだ折角生きてるんだもん!シギやっぱり昔のままだね。だから、皆でまた、」
ハルは淡い期待を抱きながら両手で二人の袖を握ろうとした。
元に戻れるように願いを込めて。
とどこからか爆竹のような乾いた音が一つした。
「え・・・?」
体に違和感を覚えた。
全ての力が抜けていく感覚。
ハルは無意識に胸に触れるとぐらつきその場に膝をついた。
「どう・・・して・・・。」
「ハル!」
駆け寄ろうとしたルカに飛んでくる銃弾をシギの小刀がはじいた。
「ル・・・カ。」
逃げてという言葉はもう出すことはできなかった。
ただ目だけはルカから離せなかったし、ルカの驚愕のあまり見開かれた目もハルからそれることはなかった。
「ハル!」
「ル・・・。」
もう名前を呼ぶこともできなかった。
唇のほんの先のほうが動いただけだった。
「ハル!!」
「よせ!ルカ!撃ち殺されるぞ!」
シギはそれでも行こうとするルカに飛びかかり押さえつけた。
ルカは正気を失っていた。
ただ目の前にいるハルを抱きしめなければという気持ちしかなかった。
風で黒い外套がなびいた。
シギもルカもその姿に息を呑んだ。
ハルの後ろには銃を握った白い仮面が一人立っていた。
「戒のハル・・・。神の御剣と通じていたということで処刑命令が出た。よって任務終了後直ちに処刑を執行した。」
ハルは残っていた力を振り絞って暗部を睨んだが、暗部はそれだけ言うとハルの腕を取り煙とともに消えた。
「ハル!離せシギ!ハルを助けないと!」
「少し、落ち着け!馬鹿が・・・。ここは敵陣だ。」
激しく暴れまわるルカはシギにみぞおちを殴られシギを掴んだまま意識を手放した。