第39話 残された二人
「ソウマああ!」
「嘘!」
ハルもルカもすぐさま駆け寄ったが、土煙が視界をさえぎり、二人がやっと見渡せたそこは崩れ砕けた壁と骨組みが生々しくむき出す山と化していた。
「ソウマアアア!」
ルカは無防備に駆け寄ろうとした。
「ルカ!待って!」
ハルの目に矢を構えた男たちが見えた。
けれど、ルカの眼中にはもう入っていなかった。
鈍い音がルカを正気にさせた。
「ハル!」
二本の矢がハルの細い腕に刺さっていた。
本能だった。
ルカの動きは。
そしてその場の誰よりも早かった。
相手に小刀を投げつけ、ハルを抱える。
それが相手に刺さったかどうかを確認することもなく、建物へと戻り、逃げ惑う人間に隠れ小さな部屋に入った。
部屋の主は急いで逃げたのか書類が散乱していた。
「畜生・・・。」
ルカはハルをゆっくり壁にもたれさせると布をかませた。
「何で庇うんだよ。この馬鹿・・・。」
矢を抜くと血があたりに散った。
ハルはそれを見ることなく、泣きだしそうなルカを見ていた。
「何だよ。」
「ふぉへん。」
「ん?」
ハルは布を取るとルカにもう一度呟いた。
「ごめん。」
「何が!」
「色々、ごめん。でももう絶対二人は裏切らないから。」
「馬鹿が。ソウマもお前も本当に馬鹿!くっそ!馬鹿野郎が!」
ルカの目からは大粒の涙がぽろぽろ落ちた。
「泣かないでよ。」
「泣いてねえ!」
ハルは微笑むと傷ついてない腕をあげルカの涙を掬った。
「子供だね・・・ルカは。」
「うるせえ。」
ルカは鼻をすすると布をハルの腕に巻いてきつく締めた。
傷は浅いのか、血がそれ以上溢れるということはなかった。
「止血も済んだし、行く?」
薄く笑って銃に弾を込めるハルにルカは握りこぶしを作った。
ハルの笑みにこれほど苛ついたことはなかった。
「何で笑ってんだ。こんな怪我したら痛くて戦う気なんてなくなるだろ?お前は逃げろよ。頼むから逃げてくれよ。」
「何言ってんの。私たち構成員だよ?死ぬことだって・・・。」
「死なせたくないんだよ!俺は、俺自身は死んだって構わない!でもハルには生きてて欲しい、せめて俺が死ぬまでは。俺より先に死んで欲しくないんだよ!お前の死に顔なんて見たくない!」
ハルの瞳はまっすぐルカを捕らえた。
ルカの瞳もハルを捕らえていた。
視線をそらしたのはハルが先だった。
「それは私だって同じだよ。きっと、私、一人になったら怖くて震え
てどうしようもない・・・。二人がいたから、生きてきた。生きてこれた。ルカとソウマがいたから怖いことだって我慢してきた。トウヤをの命を奪って生きてきたんだ。だから・・・ルカは私よりも生き抜いて。」
そう笑うハルがいじらしくてルカはその頬を両手で包んだ。
「だったら・・・死ぬのは一緒だ。二人で戦って、力尽きて、倒れて・・・隣で死のう?」
乾いた唇が触れ合った。
唇が離れるとただルカはハルの顔を見つめていた。
ハルは頬を包む温かさをかみ締めながらルカを見つめた。
「きっと、トウヤに怒られるね、浮気者って。」
「じゃあ、俺も一緒に怒鳴られるよ。」
ハルが目を閉じると、ルカはもう一度優しく口付けた。
今度は先ほどよりも少しだけ長い、お互いの温もりが分かるキスだった。
唇が離れると二人は一度お互いの顔をじっくり見つめてどちらともなく立ち上がった。
「行くか・・・。」
「うん!」