第38話 死に逝く
「あのままでは死にますね・・・・。」
「ソウマ!トオルさんが!」
トオルは頭を切ったのか顔の右半分血に染め、すでに崩壊した建物の柱に必死にしがみついていた。
そして助けを求め必死に動かしていた瞳に何かを捕らえた。
それは自分初めて欲しいと思った人。
見た瞬間に名を叫んでいた。
けれどソウマはトオルの存在を無視するかのように背を向け、迫ってきた人間に手裏剣を投げた。
その間にもトオル頭上で爆発が起こり城の残骸が降り注いだ。
トオルの悲鳴が三人の耳に入った。
「いいのか?・・・死ぬぞ。あの子。」
ルカが厳しい口調で尋ねた。
ハルは助けたかった。
必死にソウマの背中を見つめトオルは助けてと叫んでいた。
「君たち、今更、どうしたんです?あの人は長官の娘ですよ。組織として死なせてもかまいません・・・。」
(そんなこと分かってるけど!分かってるけど!でも助けたい!助けてあげたい!)
ロールケーキを嬉々とした顔で選んでいるトオルが頭の中でよぎった。
ハルは矢の飛び交うなか駆け出そうとした。
けれど、その肩をソウマが強く掴む。
「ソウマ!ソウマが行かないなら私が!」
「組織としては死んだって構わない・・・でも私としては死なせるわけには行かないみたいです。」
「ソウマ!」
ハルが微笑むとソウマも微笑んだ。
「援護、お願いできますか?行ってきます。」
「任せて!」
「仕方ねえなあ。」
ハルはルカと顔を見合わせ頷いた。
ハルは銃を二つ握って敵の前に姿を出し左右に腕を広げ撃ち続け、ルカも迫ってくる敵に炎をぶつけ続けた。
その間にソウマはトオルのもとへと駆けていた。
瓦解した回廊を足場にしてトオルのもとへつくと、トオルはじっとソウマの顔を見てから、恐る恐る指を伸ばし触れた。
ソウマはそんなトオルにごめんなさいと呟き力一杯両手で抱きしめる。
けれど、援護するルカの目に大きな黒い球が見えた。
「ソウマ!逃げろ!」
声に気がつきソウマはトオルを抱き上げようとした。
が、トオルの足は瓦礫に挟まれ動かせることは出来なかった。
二人はほんの数秒見つめあっていた。
すぐにトオルはソウマを押して何か叫んだ。が、ソウマは球を見て、だた体全部でそんなトオルを包んだ。
二人のいた場所で大きな爆発が起こり炎と地を揺るがすような衝撃が起こった。