第31話 嫌な感じ
ハルはわき道を歩き、そして一軒の宿屋の前まで来ると、あたりを見回し狭い隙間に隠れた。
数分して先ほどの二人が躊躇いもなく宿屋に入っていった。
それを確認したハルも警戒しつつ足を踏み入れた。
前に来たときと同様、受付に誰もいない。
階段下まで行って神経を集中させ、二人分の足音を聞き分ける。
扉の閉った音を聞いてから階段を上がり、扉の前にしゃがんだ。
「さっきの女の子も組織の人間?」
「そう、でも。あの子に手を出しちゃダメよ。」
「で?」
「これ資料。もちろん、構成員の顔写真付き。」
部屋の中から聞こえた声にハルは凍りついた。
「もうすぐ暗殺計画も実行される。また各隊の動向が分かれば連絡するわ。」
「ああ。いつも悪いな。」
「わかってるんでしょうねえ。これだけのことをしたんだから。その見返り。」
「分かってるよ。三人の国外逃亡だろ?」
「ええ。」
(まさか、まさか・・・。)
それだけ聞けば充分だった。
ハルは気配を消しつつ足早に階段を下りて扉を開けた。
「お、でできたぞ。」
「ちょっと待ってください!」
ソウマが止める。
ハルは蒼白な顔で宿屋から小走りで立ち去ろうとした。
ハルは自分がここにいるのは非常にまずい、そう思った。
暗部が自分を見張っているのだから。
けれど前を見て動きを止めた。
目の前に神の御剣の制服を着た人間が立っていた。
帽子をかぶっているせいで顔は分からなかった。
が、ハルはその男を見抜いていた。
「のこのこ殺されにきたか?」
無視して歩いくことが得策に思えた。
「どうするんだ?あの男、密告するのか?」
その言葉を聞くと背中に冷たい汗が流れた。
この男にもミツのことが知れている。
今の一言でそのことが分かった。
「それとも俺とこの前の続きをするか?」
「もう!うるさい!」
挑発だと分かっていてもこの前のことを思い出すと止められなかった。
体を反転させ蹴りを繰り出す。
男は手で受け止めるとハルを地面に投げつけた。が、ハルは身を翻すと小刀を投げ、それを囮に蹴りを喰らわせた。
けれど威力がなかったのか、足首をつかまれ地面にねじ伏せられ、首に刃物が当てられた。
「相打ち・・・か・・・。」
ハルの銃も男の心臓に当たっていた。
シギは退くとそれ以上何も言わず、宿屋に入っていった。
ハルの手は震えていた。
(怖くない・・・。)
そう思い込もうとした。首にはまだ先ほどまで当たっていた金属の冷たい感触が残っていた。
何度も何度もそこに手をあてて擦った。
「あれ?暗部消えましたね。」
ハルの戦闘に気を取られたルカとソウマは暗部の姿を探したがもう何処にもなかった。
「まずいな。色んな意味で。」
「ええ。でも今はハルを見てきてあげてください。薬を飲んでないから、少し心配です。」
ルカは小さく頷き、ハルの後ろを静かに歩き出した。