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GANG!!  作者: あかつき
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第24話 人生の勉強

食堂は優しい明かりが灯っていた。

ハルは置いてあった紅茶にお湯を注ぐと、初めて他の隊とテーブルについた。

皆年齢は三十前後で自分たちにはないメンターと同じような殺伐とした空気を出していた。

「ルイの知り合いか?」

「うん。ちょっとした知り合い。この子、戒の女の子。」

「あのカイクがメンターの?へえ。あの人強いの?」

「あんまり戦ってるの見たことなくて・・・。」

向かって右に座る男が声をかけた。

四角の黒縁メガネが印象的な男だった。

「確かあの人、神の御剣と戦って怪我したんだろ?」

「らしいですけど・・・。」

「今の長官。あの人に斬られたって。あの時はかなり噂になったな。ちょうど前の総裁が捕まった時だったし・・・。」

メンターが決して語らない過去の話だった。

「しかし、十代の肌ってうらやましいわあ。」

「え?」

左も男だと思っていたが出てきた言葉にハルは手を止めた。

「うらやましいわねえ。このすべすべの肌。チュウしてあげるわ。」

「え?え?」

首を強い力で引っ張られ頬を吸われた。

「でも、戒って綺麗な男の子いるでしょう。私、その子の方が好みなの。んふ。」

「あ、いるわよね。綺麗な子。」

(こ、この人女の人だったんだ。)

広い肩に化粧のされてないにきび痕の目立つ顔、何処からどう見ても男。

ハルがじっと相手の顔を見ていることに気付いたメガネの男は笑った。

「こいつ男だから。」

「コウ、それは言わないで!私、心は女の子よ。ね?ちゃんと彼氏だっているんだから。」

「私は女の子だと思ってるわよ。ね、ミツ。」

男は分が悪いと感じたのか咳をすると話を変えようとした。

けれどハルはその話に食いついた。

「どんな人なんですか?」

「年下の子なの。もう可愛くて可愛くて。」

「王都に出てきたばっかりの田舎臭あい男なんだけど。まあ、年上が見たらたまんないかもしれないわねえ。あたしの一目ぼれ。」

そういうと男は隠し撮りの写真を見せた。

そこにはいたって普通の男が映し出されていた。

十人並の顔でハルは一瞬言葉が見つからなかった。

「あ・・・あの、誠実そうですよね。」

月並みのコメントをすると男は笑った。

「でしょ?」

「何なさってるんですか?」

「王都のレストランで働いてるの。私、明日も通うわ。」

その表情はハルよりも輝いていた。

「いいなあ、好きな人がいるって・・・。」

「でしょ、人生輝くわよ。ねえ。」

「ちょっと、私に振らないでよ。」

「さ、俺行くぞ。」

メガネの男は席を立って出て行った。

「あの人・・・ですか?」

「あら、この子そこまで知ってるの?」

「まあ、成り行きでね。」

ルイは眉間に皺を寄せてはため息混じりに呟く。

「ルイとコウ。二人が付き合ってたときは見てるこっちまで幸せだったのに。ねえ。勝手に別れちゃうんだもん。」

ミツは立ち上がって紅茶を二つ煎れた。

「だって、辛かったんだもん。」

「今でも好きなんでしょ?」

「好きだけど、今は片思いのほうが楽。任務をこなしてても割り切れるもん。」

「片思いのほうが・・・楽なんですか?」

「だって、私たちに幸せはないのよ。」

そのまま沈黙が続いた。

「幸せになれないのならこの辛さをどう軽減するかよ。」

ハルは視線を落とした。

自分はその辛さから逃れるために薬を使ってる。

「でも・・・顔が見れるじゃないですか。」

「あなたの好きな人は死んだの?」

「ええ・・・試験のときに・・・。」

するとミツが頭をガシガシ撫でた。

「人を好きになるなんて一回だけじゃないの、何度だってある。」

「無理です。あの人の所に行きたいんです。」

「いるわよね。こういう鬱入ってる子。そうやって鬱の分、人生損だと思うけど?」

「ルイのいうとおりよ。せっかく生き残ったのに!幸せだと思いなさい。生き残れて幸せだったって。」

「無理・・・です。あの人いないんです。」

ミツは今度頭をはたいた。

「なりなさい。なりたいって思いなさい。せっかく生き残ったんだから。死んでしまった訓練生の為にも。」

ミツの言葉を尻目にルイが笑った。

「私、まだ顔見られるんだね。そう思うと少し楽かも。」

「こら、ルイ。私は今この子を励ましてるの。邪魔しないで!」

「ごめんごめん。」

その二人を見ていたハルは少し口を緩めた。

すると食堂に誰かが姿を現した。

「あ、ハル!ここにいたんですか?部屋に戻ってもいないので・・・。」

声をかけたソウマはハルが他の隊と一緒にいたことに面食らったようだった。

「どうかしましたか?」

「うん。大丈夫。じゃ、失礼します。」

立ち上がると二人とも手を振ってくれた。

「なにしてたんです?」

「え・・・ん、人生の勉強。」

「なんです?それ?」

不思議そうなソウマを尻目にハルは部屋へと早足で戻った。

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