第22話 訓練生 後編
『脱走兵を処理する。お前らも来い。』
全員が顔を見合わせる。
それは数年に一度の見せしめ行事だった。
逃げ出した構成員を皆の前で処刑するというもの。
処刑場には既に構成員や、訓練生たちが集まり、大きな輪になっていた。
真ん中には一人の男がいた。
まだ若い男だった。
その顔は変形するほど殴られ、四肢と首を鎖で縛られていた。
隣には鎖で縛られた女がぐったりと仰け反っていた。
『よく集まってくれた。』
黒い外套に面を付けた三人が現れた。
『この男は構成員にもかかわらず、逃げようとした。・・・女と暮らすために。』
女は口に布を詰め込まれ朦朧としていた。
布を取られてももう叫ぶ力は残っていないようにハルには思えた。
ただ街娘のようだった。
『掟は、掟。』
三人が同時に声を上げると女の体についていた小型爆弾が爆発し声も無く体は砕け散った。
『うわあああ!』
一方、男は叫んで女の亡骸に寄ろうとした。
ハルは見ているのが辛かった。
隣に立つトウヤの手をギュッと握ると握り返してくれた。
男は肉の塊に変わった女に触れるとそれを握りこんだ。
『では、処刑を執行する。』
右にいた面の男が手を上げた。
首と四肢に取り付けられた鎖が引っ張られてゆく。
鎖の先には滑車がありそれを白い面をつけた人間が数人がかりで引いていた。
長い間、男のうめき声と悲鳴が部屋に響いていた。
けれど男は握った愛した女の体の一部を決して離そうとはしなかった。
そして四肢と首がちぎれ断末魔が聞こえた。
部屋に溢れた血の匂い。
その場にいる誰もが何も言わず、足早に背を向けその場を後にした。
『ハル・・・行こう。』
いつまで経っても動かないハルを心配したトウヤが手をひき、メンターが頭に手を置く。
『行くぞ。』
何度見ても見慣れなかった。
『外の女の人を好きになっちゃダメなの?』
『・・・ここから逃げようとしなければかまわない。あと相手に職業を悟られなければな。』
『好きな人にも秘密を持つの?』
『ああ、それで幸せになるのなら嘘くらいつくさ。』
メンターは何故か悲しげに笑った。
『お前はいいな。好きな男が内部の人間だ。』
『え?』
ハルは手をつないでいたことを思い出して慌てて、すぐに離した。
『ごめん。』
『いいよ。』
トウヤは手が離れ少し残念そうに笑った。
『メンター、あの白い面付けてるやつらって、暗部だろ?脱走兵を捕まえるのって暗部の仕事だよな。ってことは俺らよりも暗部の方が強いのか?』
『基本はそうだな。俺も一時暗部にいたし。けれど、暗部は地獄だぞ。仲間もいない、ただ毎日人を殺すだけだからな。』
『暗部にだけはなりたくないなあ。』
ハルがポツリと呟くとシギはお前だけはないといわんばかりに鼻で笑った。