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GANG!!  作者: あかつき
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第15話 紛れ込む

「君は・・・?」

あえてソウマが警戒した顔をした。

すると女は伏目がちに周りを見回し小さく呟いた。

「あの、ここから離れるまででいいのでいさせてください。」

「ここから・・・?」

「お礼ならしますから。」

女は兵士が来るのを見てさらに顔を伏せた。

ソウマは彼女の存在について、多くの可能性をはじき出していた。

その間も目は彼女の至る所に注がれていた。

ハルはそのソウマの回路を信用していた。

そしてソウマは数秒後、笑顔を作り女の腰に手を当てた。

男になれていないのか、ほんの少し女の頬が赤らんだ。

「分かりました。お連れしますよ。何処がよろしいです?ハル、君、ルカの隣を歩いてください。」

ハルは頷くとルカの隣に並びソウマの回路には追いつかないルカの視線を遮った

「見すぎ。」

「・・・うるせえ。」

二人の後ろで女は小さくソウマにつぶやいた。

「ありがとうございます。」

「いいえ、困っている時はお互い様ですよ。ね?」

ソウマはすがる様な女の視線を笑顔で返しうまくエスコートする。

前を歩くハルとルカはそんなソウマに顔を見合わせた。

「あいつ・・・どこであんな技習得したんだ?」

「さあ、よく本読んでるから、そこの受け売りじゃないの?」

「ああ、あのあいつの右の本棚、そういうのばっかだもんな。」

「ルカのエロ本よりだいぶ役に立ってるね。」

「はあ?俺そんな本持ってねえから!」

「知ってるよ。二段ベットマットレスの下に隠してるの。それも三冊。」

「う、うるせえ!」

ルカは顔を赤らめハルの顔を前に向かせた

そんなハルの前をまた紙を握った兵士たちが通り過ぎていった。

ルカはその時、持ち前の動体視力で兵士の手に握られている紙を認識した。

そして得意げに口の端をあげると振り返り、と兵士から顔を背けていた女に声をかけた。

「なあ、さっきの話。お嬢ちゃんロールケーキ食べたいの?いい店知ってる?」

ハルはルカを横目で見たがすぐに視線を後ろへ向けた。

普段男と接しなれていないのか後ろで少しまごついていた女はハルと目を合わせると少し安心したように微笑んだ。

その少し幼く見えた微笑にハルは妙に好感を持った。

そしてまた女は顔を伏せた。

「ええ。人づてに聞いたんです。・・・そこに行きたくて。」

「じゃあ、そこ行こうか。大体でいいから教えてよ。」

ルカの口の端はずっと上がりっぱなしだった。

隠すということのできないルカらしい顔。

それは獲物を見つけた顔だった。

ハルにもそれぐらいわかっていた。

ハルには彼女が何かはわからない。

けれどソウマが手放さないことからも彼女の重要性ぐらいはわかる。


ハルは隠れるように店の入り口に背を向けて座った少女をじっくり眺めた。

スラリとした体つきと落ち着いた雰囲気を持ってはいたがまだあどけない顔をしていた。

「ねえ、名前なんてゆーの?俺、ルカ。」

「え、あっ。トオルです。ごめんなさい。突然。あの、どうしてもあそこから・・・離れたくて。」

大きな黒い目から涙が溢れてとまらなくなった。

ソウマはさっと白いアイロンの当たったハンカチを差し出した。

するとトオルはそれを遠慮がちに受け取り涙を拭いた。

ハルはそろそろ彼女について知りたくなった。

ソウマとルカがこれほど丁重に扱うこの少女は一体どんな存在なのだろう。

ハルは気持ちを押し殺しルカに視線を送る。

ルカは目が合うとニヤッと笑った。

一方、少女は涙を拭きながら、顔を上げた。

「ごめんなさい・・・。本当に。」

「いいえ、折角ここでお会いできたのもご縁ですし、私たちでよければお話聞きますよ?」

「ご心配かけて申し訳ありません・・・。でも・・・話せないんです・・・。ケーキ食べればすぐに帰ります。」

 ルカがメニューを差し出すと女は涙をためた目で笑って受け取った。

「ありがとうございます。」

「俺、二個食べれそう。」

「私、もう無理だよ。じゃあ、ルカの半分頂戴。」

「そうだな・・・。じゃあ、一個選べよ。抹茶意外な。」

「抹茶ひかれるのになあ・・・。まあいいや。じゃあ、このメロン。」

「トオルさんはどうします?」

「待ってくださいね。」

そういったまま色々なものに目移りしているようで少し濡れた目が始終動いていた。

(これが普通の女の子・・・。)

ハルはくるくる変わる表情を眺めていた。

腰まで伸びた黒髪は見事なほど手入れが行き届き、ほんの少し桃色に色づいた頬が妙に色っぽかった。

「話だけを聞いて、ずっとここにくるのを夢見ていて、季節限定マロン味を想像してたんですけれど・・・。イチゴも捨てがたいし・・・クルミもおいしそうだし。」

「イチゴおいしそうだよねえ。」

「じゃあ、イチゴにすれば?俺も食いたい。」

「さっき、ショートケーキたべたから、もういいよ。」

「ああ、そうだった。」

 その様子を見ていたトオルは二人を見てからイチゴに決めたようだった。注文を済ませ、商品を待っている間トオルから声をかけた。

「皆さんはお友達なんですか?」

「ええ、都会にあこがれて出てきたんですよ。」

ハルはそのソウマの一言で思考回路を回転させ始めた。

昔から別人になれるように数々の生い立ちを用意している。

そして誰に何を聞かれても詰まることもない。

「へえ、じゃあ、こちらでお知り合いに?」

「ええ、そうですね。王都までくれば仕事が溢れてると聞き、出てきたんです。私とルカは仕事先が同じでよくつるんでたんですが、いつの間にか恋人作ってまして。邪魔なのはわかりつつ寂しいのでご一緒してるんです。」

恋人という言葉を聞いて少女の目は輝いた。

「まあ、そうなんですの?私もさっきから聞こうと思ってたんです。あんまり仲がよろしいんで、恋人なんですかって。」

さすがにハルはその質問に詰まった。

そんな質問は想定外だった。

「え?・・・と・・・。」

答えたのはルカだった。

「よくわかったね。付き合い始めてまだ二ヶ月なんだ。知り合って長いからあんまり初々しさはないけど。」

ルカが少し照れながら言うのを聞いた少女は自分の頬まで紅潮させた。

「すごく素敵!私、恋人が出来れば背中合わせで本を読みたいんです。お互いにもたれあって、詩集を読むんです。気に入ったのがあれば相手に朗読してあげて・・・。」

「詩集は何がお好きですか?私が好きなのはグーツなんですけどね・・・。」

 そう言ってソウマが茶色のジャケットから本を出すと更に少女の目は輝きだした。

「素敵ですよね!私も好きなんです。初めて奥様に送った詩、あれが大好きなんです。」

「ああ、いいですね。温かく、けれども切ない気持ちになりますね。」

「そうなんです!」

 高らかに少女の声が響いた。

「なんか話がわかんないんだけど。」

ポツリとルカが呟く。

ハルは少し教養として読んだ気はしたが言っている部分は全く内容を思い出せなかった。

「ねえ、ねえ、それより何あの子?」

「おっと、まだ気づいてなかったのか?あの子の指輪見てみ。」

ハルが声を潜めやっと疑問を投げつけた。

軽く目を下へと移すと細い指に似つかわしくない大きな指輪。

幅の太いプラチナの指輪には掘り込まれた鷹が羽ばたいていた。

それは権力者の証だった。

「あれって・・・。まさか。」

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