第13話 墓
満月から降り注ぐ明かりは十分明るく、ススキが両側に生えた小さな道を下ってゆくのに十分な光を提供してくれた。
その道はハルが毎日歩き固めたハルだけの道だった。
その行く先には石を積み上げただけの小さなお墓があった。
「寂しかった?」
ハルはその前に来ると膝をつき、一昨日自分が供えた青い花から今日摘んだコスモスへと取り替えた。
「少し・・・寒くなってきたよね。」
そう墓に話しかけ優しく何度も何度も石を撫でる。
「聞いた?国王暗殺だって。すごいよね。・・・死んじゃうかも。」
改めて、全隊投入という今度の大きな計画を想像するとその圧力に飲まれそうになった。
けれどハルは強がった。
死ぬことを恐れているとこの墓の主に思われるわけにはいかなかった。
そして自分自信も恐れているとは思いたくなかった。
「そしたら傍にいけるよ。ちゃんと連れてってね。そうだな。そっち行ったらとにかくゆっくりしたいなあ。それに・・・・・・、そこなら、そこに行けば嘘つかなくてもいいんだよね。嫌なら嫌って言ってもいいんだよね。」
ハルの本当の言葉に石はなんの反応も示さない。
まるでそれは本人から無視されてるように思えた。
「・・・今度は素直になるよ。次に逢えたら好きって言うから。」
もし二人生き残って同じ隊になったならば先ほどの静の女のように好きな人の目の前で任務に束縛され誰か違う男に抱かれていた。
お互いが任務と割り切ろうとして逆に割り切れない毎日。
それでももう大好きな人に会えないハルは生きてくれさえすればいい、今はそう思う。
けれどそれは失わなければわからなかったこと。
「きっと、生きてたら今頃お互い嫌いになってたかな。それとも二人で毎日泣いたのかな・・・でも、それでも、生きてて欲しかったよ。顔、見たいよ。会いたいよ。声聞きたいよ。」
言葉に出すとさらに想いが募った。
優しく微笑む顔を思い出すと体が締め付けられた。
「・・・あの時死ぬのは私だったはずなのに。だって死んだってよかったんだもん・・・本当に・・・だから生きててほしかったんだよ。」
そのまま石の傍らに腰をかける。
空を見上げると星がたくさん輝いていた。
「昔よく話したよね。私の両親がどの星かっていうのと、お父さんがどれかって・・・。メンターには馬鹿にされたけど。」
フワッと優しい風が吹き、ススキが乾いた音をたて揺れた。
(え?)
ほのかに探していた匂いがした気がした。
慌てて振り返る。
けれどやはりススキが風で揺れているだけだった。
「側にいてくれてるのかな・・・。」
今でも覚えているいつも隣にあった匂い。
「あ、今光ったあの星、懐かしいね。昔あれ、私のお母さんっていってたよね。覚えてる?」
どんなに想っても、声をかけても、もう声を返してくれることはない。
もう何度もここで繰り返してきた。
一人で会話することを空しく思ったことはない。
きっとこの声は届いてるとハルは信じてきた。
不意に後ろの砂利を踏む音がした。
「ああ、やっぱりここにいたんですか。」
「どうかした?」
ソウマは薬をもらいにいくと言ったままいつまで経っても戻ってこないハルを心配して探しにきた。
けれどそんなことなどおくびにも出さなかった。
「いいえ。何も。」
そして空を見上げる。
「しかし、いつもここは星が良く見えますね。」
「うん。ここお気に入りの場所なんだ。」
「寒くありませんか?」
「少しね。じゃ、戻ろうか。」
「そうですね。夜は冷えますし。部屋に戻って作戦立てましょう?」
「うん。」
仲良く並んで組織へと戻る二人の姿を見ていた男はその場から消えた。