第11話 任務その弐
「そうか、軍では役に立たんか・・・。やはり神の御剣を総動員してやるしかないか。」
神の御剣の最高責任者である長官はため息交じりに報告に来た男に問うた。
三年前に長官になって以来、組織の壊滅には定評のある指揮官にとって、前に立つ年若い部下は何よりの戦力だった。
「ええ。神の御剣ももしやすると壊滅するかもしれません・・・。それくらいの手練たちです。」
「賓度羅のアジトに潜入するというのはどうだ?お前ほどの手練ならば出来ないことはないだろう?」
長官の言葉に若い班長はただ傅いていた。
その若い男の眉間には深い皺が刻まれていた。
「あれはおそらく王城よりも進入が難しい。位置は把握していますが、総裁の顔が分からないとなれば逃げられてしまう可能性はかなり高いでしょう。もう少しここは慎重に・・・。」
「そんな悠長なことでいいと思っているの?」
部屋の隅で花を生けていた女が突然声を荒げた。けれど若い男はそちらを向くことは無い。
自分の主はお前ではないと言いたげに。
「あの子の第一王子との結婚を取り付けるためにも貴方たちには働いてもらわないといけないの!こんなことではだめ。貴方たち国の精鋭部隊でしょ?そんな弱気でどうするの?あんな人間の屑早くどうにかして。すごく目障りよ。」
男は顔色を変えることもなく一度頭を下げると、その場を立ち去った。
「あの男、使えるのか使えないのか分からない男。」
「優秀だよ。あいつは。」
「そうかしら?とにかくあの屑共をどうにかして欲しいものねえ。」
「・・・王子はまだ九歳焦ることはないさ。君は心配しなくていい。」
長官は妻に優しく微笑みかけると窓の外を見た。
外では少し強い秋風に木の葉が舞い上げられ飛ばされていった。
「またですか?」
「ああ、デートの間中ずっと。むしろ。俺じゃなくてハルをずっと見てた。」
お菓子を買い込みハルとルカが戻ると部屋に既にソウマが戻っていた。
ルカはハルがシャワーを浴びているのを確認すると机に向かって経済の勉強をしていたソウマへ近づき報告を始めた。
「何か危害などは?」
するとルカは首を振る。
「そうですか・・・。ハルを・・・。」
「っていうかさあ・・・。ハルってまだ死にたいのかな。」
「どうしました急に?」
「ずっとあいつのこと引きずって・・・。」
「あのことは君も引きずってるんでしょ?もちろん私もですよ。何もしなかったんですから私たち。・・・なのにここにいる。ハルはしてしまったんですから、尚私たちより後悔の念は大きいでしょう?死にたくなるのも当然といえば当然。だから薬を飲んでるんです。」
ルカはソウマの側に座り込むと顔を伏せた。
「何、落ち込んでるんです?」
「何かさ・・・俺たちにも少し位良いことあってもいいのにな。」
「そうですね。せめて。」
「え?」
「ハルが君を好きになれば良いんですけどね。」
「な、何だよ!それ!」
「いえいえ、何もありませんよ。ほら、そんなに顔を赤くしないでください!」
「してねえよ!」
ルカは立ち上がると二段ベットの上段へともぐりこんだ。
そしてソウマは椅子の向きを変えると楽しそうに顔を崩した。
「お風呂、お先!あれ?ルカは?」
ハルは頭を拭きながらソウマに声をかけた。
「布団の中から目だけ出してますよ。」
「なにそれ?」
ハルは笑いながら部屋の中央のが辞典が山積みになっている机によってゆき、その隙間で見つけたルカの食べかけたバター味のポテトチップに手を突っ込んだ。
「今日のデート楽しかったですか?」
「・・・ルカ何か言ってた?」
「いいえ。私の個人的な興味ですよ。」
「うん、結構楽しかったよ。ケーキおいしかったし。今度ソウマも一緒に行こうよ。」
「ええ、私はケーキは要りませんが、おいしいお茶ならお供します。」
「大丈夫、お茶ももちろん見てきたよ。」
「さあ、ご飯食べに行きますか?」
「うん!いくいく。」
「そこの目だけ出してる人はどうしますか?」
「行くに決まってるだろ!」
起き上がったルカは飛び降りると二人の後ろを追いかけた。
「はあ、休み終わるの早いねえ。何でこんな一日早いんだろう。」
「ですねえ。最近は他の隊が消されてますし我々の仕事ずいぶん増えてますから。」
「まあ、その分給料増えたけどな。」
食堂はこの組織にあっては暖かい色調で作られていた。
死を傍に置く構成員に少しでも安堵を与えられる様にと考えられたものであった。
三人は夕食として置いてあるビーフシチューをめいめい盛り、パンをいくつか取り席につく。
「いただきます!」
ルカが張り切ってパンにがっつくと同時に、
「食事中悪いな、次の任務だぞ。」
メンターが自分の食事を持ってハルの隣に座った。
食事の乗ったトレーの上に分厚い書類が置かれていた。
「次はちょと難しいぞ。」
「何だよ?メンターにしては珍しいこというな。」
ルカはパンをほおばりつつ言葉をかけ、ハルはただボンヤリ、メンターの顔を見ていた。
ソウマが次の言葉を促した。
「で、一体なんです?」
「国王暗殺だ。」
「え?」
ハルはその意味がわからずもう一度聞き返した。