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時間屋  作者: こな子@
3/3

最期 真奈子

 光希がいない世界なんて私には耐えられない。

 彼の話を一通り聞き終えての感想が、それであった。

「光希って、一番大事なところは自分勝手だよね。普段は誰よりも気を遣える人なのにさ」

 そういうところも含めて好きなんだけどな。

 最後の一言は心にしまっておいた。

 言ったところで、光希がいなくなってしまうという運命は変わらないから。

「ごめん。俺の誕生日、覚えててくれてる?」

 忘れるはずがない。好きな人の誕生日なのだから、忘れたくても忘れられない。

「……明後日」

「うん、そう。ごめん。言うのが遅くなって」

 付き合い始めて九年目。こんな形で終わりがくるとは思わなかった。

 でも、どうしてこの人は、時間を売ったりなんてしたんだろう。お金がいらないなら、時間なんて売らなければもっと長い間一緒に居られたのに。

「真奈子、九年も一緒に居てくれてありがとう。俺以外の人と幸せになるのは、真奈子の自由だから」

 そんなことを言われても、涙すら出なかった。

「ごめんね、私、今日はもう帰る」

 明後日には彼が死ぬと言うのに。

「真奈子、明日はさ、明後日の朝まで一緒にいてよ」

「わかった。明日、光希の家に行く」

 そう言って、今日は自分の家に帰った。


 次の日の午後に、私は光希の家へ行った。いつものように私がお昼ごはんを作って、二人で他愛もない話をしながら食べた。

 その次の日は光希の誕生日だったから、前から用意していた誕生日プレゼントを一日早いけど、渡した。

 前から彼が欲しがっていた私とお揃いのうさぎのぬいぐるみと、イヤホン。

 喜んでくれてよかった。

 夜になって、布団を横に並べて、寝転がって、沢山お話した。

 いつの間にか光希は寝てしまったようで、話しかけても返事が返ってこなくなった。ふと時計に目をやると、十二時をまわっていた。


 ああ、光希は、もう、返事をしてくれないんだ。


 次の日の朝。光希の家で目を覚まし、朝ごはんの支度をしようと思って台所へ行く。

 食べ物は何もなかったので、コンビニへ買いに行くことにした。

 いつもと違う、彼の家からは少し遠いコンビニに行って、パンを買う。

 家に帰る途中、中性的な顔立ちをした人に話しかけられた。

「時間を買いませんか」

 どこかで聞いたような台詞。

「あなたは、時間屋さんですか」

「そうです。あなたは光希さんの彼女ですよね」

「ええ」

 吸い込まれるような黒い瞳。

 ふわふわとした髪の毛。

 低いとも高いとも言えないけれど、可愛らしい声。

「時間を買いませんか」

 彼がいないこの世界で、長生きをする意味はない。

「時間なんて、いりません」

 そうだ、光希は、時間を売ったと言っていた。

「私も時間を売りたいの」

 彼がいないこの世界で、生きている意味なんてない。

「私のこれからを、全て売ります」

 そういえば、来週は友達とライブに行く約束をしていたっけ。

「早く彼と同じ場所へ逝かせてください」

 来月は同窓会もあったっけ。

「それでは、ここに左手を、おねがいします」

 半年後はお姉ちゃんに子供が生まれるんだっけ。

「ありがとうございました、もういいですよ。あなたは、明日亡くなります」

 時間屋がにっこりと笑う。私も笑い返して言う。

「お金は、いらないですから」

「そう言われると思っておりました。それでは、残り少ない人生を楽しんでください」

 そう言って時間屋は去っていった。

 彼の家へ戻り、せっかく買ったご飯も食べず、彼の隣で覚めることのない眠りに身をあずけることにした。

 ごめんね光希。

 私も明日、そっちへ行きます。



 ……翌日のニュースは、寿命で亡くなったとは言い難い、若すぎる二人の、異様で美しい最期の謎の話でもちきりだったようだ。

 真実を知る者は、ワタシ以外に誰もいないんだろうなと思いながら、買い取った二人の鼓動を感じて、次のお客様を探そうと、歩き出した。

肝心の時間の売買のシーンが薄くなってしまったな。もう少ししっかり設定を作りこめばよかったかも。


時間は大切に使いましょう。

大事な人には気持ちをちゃんと伝えましょう。

ずっと一緒に居られるなんて、有り得ないのだから。

それこそ、時間を買わない限り。

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