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「昨日はありがとうございました!」
キースとレオが、他の仲間たちと授業の合間でボールを投げ合っていると、昨日助けた下級生たちが、一斉に頭を下げてきた。
「ああ、何てことない」
キースは笑って言った。
「でも、レオが来てくれなかったら危なかった」
とレオを見ながら笑った。
彼らはレオにもお礼を言い、お辞儀をした。
「僕はフェリクスです。こっちはレンとシリルそれからジュリウスです」
「フェリクス…というと…」
キースはどこの家の子だかすぐにわかった。
なるほど良い家の子だと思ったが、ウィンスレット公爵の後継ぎか…。
スクールでは家名によらない教育を意識しているため、どこの家だとは名乗らない。
「俺はキース、こっちはレオだ」
純粋そのもののキラキラとした目で見られてこそばゆくなる。
「僕らも強くなれるように頑張ります!」
フェリクスはぶんぶんとキースの手を握って振ると、にこにこと笑って去っていった。
「可愛いなぁ~」
とアルバートが横で呟いた。そうだな、とキースも同意した。
模擬戦の授業は、上の2つの学年が合同でするのだが、この年の将を務めるキースは作戦を立てて、指揮をするのがめっぽう上手かった。
確実に勝利を目指すその作戦に、味方からも
「キース…お前、こんな年から腹黒な…」
と言われていた。
「ばーか。実際に戦争になったら腹黒だとかそうじゃないとか言ってられるか」
アルバートたちは爵位を継がないが、キースは伯爵家の次期当主だ。
有事の際にはアークウェイン家の兵を率いて戦わなければならない。それだけの覚悟と自覚は持っている。日頃どれだけふざけたりしていても。
模擬戦は、騎乗して、相対するチームの頭に巻いたリボンをとらりあうゲームだ。
キースは馬の扱いが上手く、誰にも負けたことがなかった。相手チームの将はサイラスだ。
サイラスには悪いが、模擬戦では自分が上だと自負がある。
しかし、相手チームにもローレンス、エドワードとなかなか好敵手が揃っている。
「おい、アベル、アラン。お前らは絶対に真剣にやれよ?ふざけたりしたらみんなの前で尻を出して、叩いてやるからな」
双子のアベルとアランはなかなかのいたずらっ子で、キースが心配するチームの一員だった。
ふざけたりしなければ、息のあった動きをする彼らは頼りになる戦力だった。
「「ご褒美は?」」
そっくりな顔を向けられて
「…勝ったらお前らの好きな物を食べさせてやる…」
「「うーん?じゃあアイスかな?」」
「了解だ。叶えてやるからしっかりやれ」
本物の戦いさながら、軽い防具を着けて赤と青に別れて相対すると、キースの気分も高揚した。
背後にはディーンとアルバート。それからレオもいた。
ラッパがならされ
「いくぞ!」
キースが声をかけて、作戦通り馬を走らせる。
砂ぼこりが舞い上がり、両チームがせめぎあう。
キースの作戦は、相手一人に三人でかかり、一人ずつ確実にリボンを奪う作戦だった。
結果一人にかかる勝負の時間は短く確実に相手を減らしていった。
キース自身は馬術を駆使して、相手を翻弄してとられることなくリボンを奪っていった。
結果としてはキース側の勝利となった。
およそ、少年らしからぬ作戦に教師たちも苦笑した。
「すごいなキース。見事な作戦勝ちだ」
レオにそう感嘆の言葉をかけられて、キースは嬉しくなった。
「だけど、レオには剣ではかなわない…だけどいずれは勝ってみせるからな、待ってろよ」
ニヤリと笑って見せた。
約束通りふざけたりせずに頑張っていたアベルとアランにはアイスを買ってやらなければならない。
「帰りに約束通り奢ってやるから待ってろよ」
「ええっ?アベルとアランだけ?俺らも頑張ってたのに」
と不服の声が上がり、キースはぞろぞろと連れて歩く事になってしまった…。
お洒落な人々がお茶やお菓子を楽しむお店のロックハートへ、スクールの男の子たちがぞろぞろと来たので、ぎょっとされてしまったが、スクール内ではやんちゃな彼らだが、みんなそれなりの教育をうけた少年たちだ、衆目があればそれなりに振る舞う事が出来る。
だからこそ、大人たちもほほえましくみてくれている。
キースは全員分をアークウェイン家へ請求するようにサインをするとそのまま、フォレストレイクパークへと向かった。
公園までいくとさすがにみんな騒がしくなり、ひとしきり楽しむと、一人、また一人と帰っていった。
「なぁ、キース」
残っていたレオがキースに話しかけた。
「キースはその爵位を継ぐんだよな?」
「ああ、そうだな…それが俺の役目だと思ってる。守らなくてはならない、人や物があるからな」
「…そうか…」
「まぁ、普段荒っぽい事ばっかりしてるから、真面目な事を言うと照れ臭いけどな」
キースは自分を笑った。
キースは授業はサボるし、喧嘩は買うし、そして売りもするし、模範生とはほど遠い。
次期伯爵としては眉をひそめられる行為に違いない。
けれど、レオは考え込むような表情をして、ごちそうさまと笑って言うと、駆け出して帰っていった。
なんだったのか?とキースはその姿を見送った。
そろそろ夏も終わりが近づく。
キースのスクール生活も残りわずかとなっていた。




