モンスターの証拠は……
ひととおりサイラスの話が終わると、
「おかしいじゃないか! どうして、モンスターの記録がないんだ!!」
例によってバーンが椅子から立ち上がり(それまでも、話の間に何度も立ち上がり、話の腰を折っていたが)、大声を上げた。
「ええ、確かにおかしいですね。それは、モンスターが本当に存在すると仮定するならばの話。だから、ここは、モンスターがいないと考えるのが普通……」
「いや、そんなはずはない! モンスターは必ずいる!! 目撃者がいるんだ。目撃者がいるということは、モンスターがいるということだ。これは、動かぬ証拠なんだ!!!」
バーンは、サイラスの話をさえぎって言った。理屈としては、ハッキリ言ってムチャクチャであるが、バーンの頭の中では、論理的に一貫した理論となっているのだろう。
「それにしても、70メートルか。深いな。そこまで掘り下げる必要があるのかね」
チャーリーは、興奮しているバーンを横目に見ながらつぶやく。
「理由までは分かりませんが、チャーリー、あなた、何か企んでいるのですか?」
サイラスは、何やら興味をそそられたようにチャーリーの顔をのぞき込んだ。
チャーリーは、意味があるのかないのか、ニヤリとして、
「いや、別に……」
バーンは興奮が治まらず、大声で「モンスター」を連呼している。大蛸亭にいる他の客にとっては甚だしい迷惑であり、店にとっても、もはや営業妨害である。
やがて、マッチョな店のオヤジが2メートル近くの巨体を動かし、バーンの目の前に立ちはだかった。
「お客さん、そろそろ、気分を静めてくれませんかね」
声のトーンには、少々怒気が含まれているようだ。それも当然であろう。
しかし、空気を読めないし読む気もないバーンは、まったく意に介さず、
「いや、落ち着いていられる状況じゃない。モンスターがいるという証拠が……」
バーンが言いかけると、オヤジは威嚇するように、更にバーンの前に一歩踏み出し、
「証拠ですか。しかし、この店に、モンスターの証拠はありませんな。証拠をお求めなら、そうですな、例えば、この町のシーフギルドとか。そこなら、公にできない裏の情報も手に入るかもしれませんな」
すると、バーンはハッとしたように大きく目を見開き、
「そうか、シーフギルド…… そうだ、その手があった!」
そして、チャーリーのもとに歩み寄り、両手でチャーリーの両肩をつかむと、
「シーフギルドに行こう。そこに行けば、何か情報が……モンスターの情報を、きっとつかめるはずだ。さあ、行こう、今すぐ、さあ、さあ!」
いきなり話を振られた格好となったチャーリーである。確かに、シーフギルドに出入りできるのは、自らもシーフギルド員であるチャーリーだけ。しかし、バーンのこの言い様あるいは態度は、説明を要しないほどに、非常識極まりないものである。
ところが、この時のチャーリーの返答は、またもや……




