再び大蛸亭で
夕方になって、バーンたち一行は再び大蛸亭に全員集合した。目的としては、一応、その日の調査の成果を報告し合い、情報を共有するためということになろう。ただ、実際には、そのような堅い話ではなく、みんなで机を囲み、食べて飲んで話をして、そして寝ようという、冒険者のパーティーにはよくある日常である。
その席で、バーンは「超」が付くくらい、ご機嫌に
「聞いてくれ、サイラス! ようやくモンスターの証拠をつかんだぞ!!」
ただし、他のメンバーはどうかというと、なんとも言いようもなく、苦笑を浮かべるのみ。モンスターの目撃証言とはいえ、それ一つだけだし、しかも子供の言うこと。何かの見間違いを、そう思い込んでいるだけかもしれない。
バーンは身を乗り出し、サイラスに顔を近づけると、
「で、サイラス、そちらはどうだった?」
「ええ、それなりの収穫はありましたよ。そうですね……」
サイラスがジギスムントを伴って市庁舎の資料室で調べたところによれば、オクトハーブ自由市で、運河と湖の神を祀るため、牛や豚とともに高価な供物を湖に投げ入れるお祭りが始まったのは、運河開通直後ではなく、今から50年程度前だという。ただし、お祭りに関するいわれ、由緒、因縁等については記録がまったくなく、その時の市長は、男爵位を購入し「マッドバロン」と呼ばれた非常にエキセントリックな人物であった。また、お祭りが始まった年には、港に入港する船に対し、その排水量に応じ、運河と湖の神への贄(豚や牛など)を供える(湖に投げ込む)ことを義務付ける条例が制定されている。
「ちなみに、オクトハーブ湖名産のウルトラ・ジャイアントケルプの生産量の統計が残っているのは、この頃からですが、これはどういうことなのか……」
「そんなことは、どうでもいい。とにかくモンスター! 記録がどこかにあるはずだ」
バーンは、サイラスの話の途中で何度も口を挟んだ。しかし、そのたびに、「まあまあまあ」とサイラスやマリーナに軽くいなされていた。
サイラスの話を続けよう。彼すなわちマッドバロンは、当時、南北大運河やオクトハーブ湖の「近代化・現代化大改修」(当時の名称による)も行っており、それにより運河幅は最大50メートル、水深は最大20メートル、オクトハーブ湖の水深も70メートル以上へと大幅に拡張された。ここまで大規模な工事が必要かという点については、当時の町の人たちは「やっぱりマッドバロンだから」ということで、問題にしなかったらしい。
「70メートル以上って、うそだろ……」
突然、チャーリーが目を剥いて言った。
「いえ、本当です。それに、沖の方に行くにしたがって徐々に深くなるのではなく、一歩でも踏み出せば、いきなり70メートル以上。オクトハーブ湖は、湖というより、お城のお堀に類するものと理解すべきかもしれません。一般人の遊泳や釣りなどは、危険なので、当然、禁止。落っこちたら助からないでしょう。なお、ウルトラ・ジャイアントケルプの収穫は、専売方式で、政府が船を出して直接行っているようですね」
サイラスは、なぜか苦悶の表情を浮かべるチャーリーを尻目に、愉しげに笑った。




