神殿の事務員の話
女性事務員の話によれば、自分の記憶では、(バーンが期待するような)オクトハーブ湖にモンスターがいるというような話は聞いたことがないという。ちなみに、お祭りのメインの儀式として湖に豚や牛を殺して投げ入れたり、高価な財宝を沈めたりするのは、何十年も前から続くこの町の伝統であり、そうなったいきさつや儀式に含まれる宗教的な意味等については、神殿の書庫に記録があるかもしれないが、事務員の自分には今この場で説明できるだけの知識がないので、そういった説明が必要なら、後日、足を運んでもらいたいとのこと。
「ああ! 神殿でも知らないなんて、なんということだ」
バーンは落胆し、頭を抱えた。
「まあまあ、バーン、世の中こんなものよ。何もかも自分の思うとおりには、ならないわ」
マリーナは「よしよし」とバーンの頭をなで、慰めている。
「ところでよぉ、湖に沈んだ財宝、あれは、どうなるんだ?」
突然、チャーリーが口を開いた。
「『財宝』と言うと、なんだかね。あくまでも、お供え物だから。ええ、そうね、それ以上でもそれ以下でもないわ」
「ああ、そうかい。で、そのお供え物が、祭りのクライマックスで湖に沈むと……」
「まあね。『クライマックス』も、ちょっと、という感じかな。一連の儀式の一番最後、豚や牛を運河と湖の神に捧げてから、この神殿の最高神官が祈りを捧げつつ、お供え物を湖に投げ入れて、それでようやく儀式が無事終了という感じかしら」
「で、沈んだ先の話だが…… いや、いい、ありがとよ」
チャーリーは、「ふっ」と短く息を吐き出し、腕を組んだ。まだ何か、もの足りなさげではあるが、これ以上、話を続けようという気はないようだ。
エディはポンポンと、二、三度バーンの肩をたたいて立ち上がり、女性職員に一礼すると、
「本日は、お忙しいところ、僕たちの……なんというか、本当に妙な話にお付き合いいただき、ありがとうございました」
「いえ、いいのよ、そんなにかしこまらなくても」
女性事務員は、「全然問題ない」というように、手のひらを左右に振った。
エディは、ふと思い出したように、クルクルと辺りを見回し、
「ところで、先ほどお茶とお菓子を配ってくれた女の子にもお礼を言いたいのですが、あの子はどこに行ったのだろう。そういえば、さっきの話では『わけあり』ということでしたが、それは一体……」
「あの子のこと? 前は、本当に明るい子だったのよ。でも、半年くらい前かしら、あの子の両親が急にいなくなっちゃったらしくて。あの子は『怪物にさらわれた』って言うんだけど、なんたって、子供の言うことだから……」
「なに、怪物だって!? やっぱり、モンスターじゃないか。どうして黙ってたんだ!」
バーンは突如、生き返ったかのように、大声を上げた。




