露店が並ぶストリート
マリーナはニコッとして(あるいはニヤッとして)、バーンにまとわりつき、
「ねえ、バーン、もうお昼よ。お昼ご飯は、何がいいかしら?」
「お昼だって? しかし、我々には、そんな余裕はないはずだ。湖にいるモンスターの脅威から町の人々を解放するためには……」
「でも、バーンだって、おなかペコペコじゃない。モンスターと戦うためにもエネルギー補給は必要よ」
マリーナはバーンに食い下がった。モンスター云々はさておき、彼女自身も先ほどから空腹感にさいなまれていたのである。のみならず、エディも「そうだ、そうだ」の意思表示であろう、何度も頭を上下に動かしている。
「いや、しかし、今はそんな場合では……」
と、バーンはなおも渋っていたが、
「腹が、減ったなぁ……」
チャーリーのひと言で、昼食を巡る四人の議論には決着がついた。
バーンは「顔をつぶされた」とでも思ったのだろう、鬼のような形相でチャーリーをにらむ。しかし、言葉に出さない限りは、往々にして、誰も気付いてくれないものである。
チャーリーは、そんなバーンを横目に、
「そういえば、通りに露店が並んでいたよな。そこで何か買おうぜ」
すると、マリーナとエディーは、「さんせーい!」と歓声を上げた。
オクトハーブ自由市の港から市庁舎までは、街のメインストリートである。
明後日には、神殿において運河と湖の神を祀る儀式が行われ、メインストリートではパレードが催されるとあって、ここ数日はお祭り期間。通りの両側には多くの露店が立ち並び、その場ですぐに食べられるジャンクフードのほか、ウルトラ・ジャイアントケルプ等のオクトハーブ湖名産品や、各地から取り寄せられた品々が売られている。露店からは威勢のよい声が飛び交い、通りには多くの人が行き交っている。
マリーナとエディは通りに出ると、蝶々や蜜蜂が花から花へ移るように、落ち着きなくいろいろな露店を見て回っていた。そして、珍しいもの(見慣れないもの)を見つけては、「すごーい!」とか「おいしそう!」とか、子供のような声を上げている。
バーンはそんな二人を見ながら、非常に不機嫌な表情で、
「いつまでフラフラ歩き回っているんだ! いい加減、買う物を決めたらどうだ。これでは、いつまでたっても昼食にありつけないじゃないか」
「そんなこと言っても、ねえ……」
マリーナはエディと顔を見合わせた。マリーナはエルフといえども女性。女性とは、基本的に、ショッピングが好きな、買い物に時間がかかる生き物である。そんなマリーナに波長が合うエディには、案外、女性っぽいところがあるのかもしれない。
なんとも面白くないバーンは、思わず地団駄を踏み、
「くっ、そんなバカな! どうして、こんなっ!!」
「ふっ、まあ、気長にやろうぜ。おっと、これは独り言だからな、バーン、おまえに対して言ってるんじゃないぞ」
その傍らでは、チャーリーがそれほど健全とは言えないような薄笑いを浮かべていた。




