徹底した調査を
「いっ、いや、ちょっと待ってくれ。どうして、こんな高価なものを?」
チャーリーは、信じられないという面持ちで尋ねた。
「『どうして』と言われましても、私にも詳しい経緯は分からないのです。詰まるところ、昔からの伝統ということですな」
と、オクトハーブ前男爵は笑みを浮かべた。ともあれ、伝統とは、基本的に、そういうものではある。
「おかしい! おかしすぎる!!」
今度はバーンが声を上げた。
「供物の金銭的価値は問題ではない。問題は、湖にいるモンスターが、供物を要求しているということだ。この問題こそ、何よりもまず、解決されなければならない!」
突然の「モンスター」発言に、オクトハーブ前男爵は、(どうにも理解できないという表情で)眉間にしわを寄せて首をひねった。
バーンは更に畳みかけようとしたが、話がややこしくなることを懸念したパーティーのバーンを除く全メンバーが、実力でバーンを押さえ込んだ。
「失礼いたしました。彼の今の発言は、こちらの話なので、お気になさらず……」
と、サイラス。
オクトハーブ前男爵は「ははは」と愛想笑いを浮かべ、
「いずれにせよ、配達、ご苦労様でございました。もし、運河と湖の神の儀式に興味がありましたら、神殿や市庁舎の資料室に行かれてはどうですかな。何か手がかりがあるかもしれませんな」
と、配達物の受領証にサインした。この受領証を帝都(冒険者の宿)に持ち込めば、報酬を受け取ることができる。
前男爵は、加えて、護衛の戦士の差し出した羊皮紙に、市庁舎の資料室に入るための「紹介状」を書き始めた。すると、サイラスが「おお」と声を上げ、喜びを表現した。
こうして、配達依頼を達成したバーンたち一行は、オクトハーブ前男爵の館を出た。
「おかしい! あの老男爵、善良そうな顔をして、何か隠している。特に、護衛の戦士が多すぎる。裏でやましいことをしている証拠だ!」
バーンは館の門の前で、声を張り上げた。
「そうですね、そういう可能性も完全に否定できないかもしれませんがね」
と、サイラス。今までとは違った反応だが、これは、どういうことか。
「であれば、ここは、徹底して調査してみましょう。私はジギスムントと市庁舎の資料室に行ってみます。バーン、マリーナ、エディ、チャーリーの四人は、この町の神殿で話を聞いてみてはいかがでしょうか」
つまり、知識の収集に情熱を傾けるサイラスとしては、モンスター云々はさておき、市庁舎の資料室で古い公文書等の諸々の歴史的資料を目にするチャンスを逃したくない。そこで、バーンの「モンスター」を利用しようという企みである。
「え~っ!? これから、お祭りを見物するんじゃなかったの」
マリーナは不満の声を上げた。配達依頼を達成した後は、街のメインストリートに並ぶ露店で買い食いやショッピングを楽しむつもりでいたのだろう。エディもマリーナに同調し、ウンウンとうなずいている。
こうなると、チャーリーの賛否が決定的に重要となるが、彼の出した結論は……




