どこまで歩く
ちなみに、ここは路上。
チャーリーは寝不足で血走った目をこすりながら言った。
「ちぃ、一体、いつまで歩けば着くんだよ」
荷物の届け先であるオクトハーブ前男爵の館は市庁舎の裏手にあり、市庁舎は港から程近いところにある。ゆえに、バーンたち一行は、すぐに目的地に到着し、荷物を渡し、仕事を終えるつもりでいた。
ところが、なかなか前男爵の館にたどり着かない。確かに、市庁舎の入口までは、港から10分程度であった。ところが、そこからは(市庁舎や館を囲むのであろう)高い壁が延々と続くだけで、壁に沿ってどこまで歩いても、館の入口らしいものは見えない。
「泣き言を言うんじゃない。とっとと歩け」
ジギスムントはチャーリーをにらむ。ジギスムントはストイックな性格で、自分にも他人にも厳しい面があった。チャーリーは「ちっ」と舌打ちして、黙ってしまった。「喧嘩しようにもドワーフの戦士が相手では勝てない」とでも、思ったのであろう。
そうこうしている(壁に沿って何度も角をまがっていく)うち……
「あっ、あれは! 前男爵の館の入口じゃない?」
十何回目かの角を曲がってすぐのところ、エディが言った。
エディの指さす方向には、大理石の門柱や彫像、華美な装飾等々により構成された大きな洋風の門構えが見える。その門の両脇には、門番であろうか、完全武装の戦士が二人、槍を構えて立っていた。
「ようやく到着したようですね」
サイラスはやれやれという顔で、額の汗をぬぐった。
こうして、ようやくオクトハーブ前男爵の館に到着したバーンたち一行であったが……
「遅いっ! 一体、いつまで待たせるんだ!!」
今度は、バーンが大きな声を上げた。
館の門を前に待つこと数十分、まだ門は閉ざされたままであった。ただ、これは前男爵側から来訪を拒否されたわけではない。門番の曰く「ただ今、前男爵に確認してまいりますので、しばらくこのままでお待ちください」の「しばらく」が、数十分にわたって続いていたのであった。
「仕方がないわ、バーン。ここはどう考えても、『入っていいよ』と言ってくれるのを待つしかないでしょう」
と、マリーナ。彼女は今日もバーンのなだめ役である。
「この将来の大騎士、バーン・カニングを待たせるなんて、許されない!」
「ちょっと、それはダメよ、バーン!」
頭に血が上り門を蹴飛ばそうとしたバーンを、マリーナが体を張ってとめようとした、その時、繊細なレリーフが施された門扉が音も立てず動き出した。
そして、門扉が完全に開いた先には、
「ようこそ、オクトハーブの町へ。遠路はるばるご苦労さまです。私が事実上の当主と言いますか、フランク・ヴィンセント・ハンフリー・オクトハーブでございます」
オクトハーブ前男爵自身が、場違いな感もあるが護衛の戦士を大勢従え、バーンたちを出迎えていた。




