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ザ☆旅行記 外伝 バーン・カニング列伝  作者: 小宮登志子
第2章 運河とオクトハーブ自由市の歴史
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豪奢な市庁舎

 一夜明け、港の桟橋の先端では、バーンとチャーリーが(昨夜は一睡もしていないのだろう)血走った目で、なおもにらみ合っていた。

 ただ、パーティーの(バーンとチャーリーを除く)メンバーには、それほどの驚きはない。バーンとチャーリーが疲れているなら、これ幸いと、二人を促し、せき立て、オクトハーブ前男爵のもとに荷物を届けに向かった。バーンもチャーリーも、何も言わず、後ろについてきている。なお、荷物はジギスムントとエディが二人がかりで運んでいる。

 サイラスは、仕事を請け負う際に受け取ったメモ書きを取り出し、

「オクトハーブ前男爵の館は……ふむふむ、市庁舎の裏にあるのですか」

「……ということは、あまり遠くではないんだね。よかった」

 と、エディ。そもそも戦闘に向かないだけあって、力仕事は得意ではない。

 ちなみに、港から市庁舎までは、オクトハーブ自由市の(ここ数日は露店が並ぶ)メインストリートを徒歩で10分程度の距離。港からも、市庁舎の建物が見える。


 オクトハーブ自由市の市庁舎は、大理石がふんだんに用いられ、外装に華美な装飾が施された宮殿風の建築物である。このような豪奢な市庁舎は、オクトハーブ自由市の経済力の反映であり、その経済力は、北の大河の支流と南の大河の支流を結ぶ南北大運河に由来する。

 パーティーが運ぶ荷物の受取人はオクトハーブ前男爵であるが、オクトハーブ男爵家のご先祖(ハンフリー家)は大昔、帝都において金融業(「高利貸し」とも言う)を営み、財を成していた。ちなみに、商号は「幸せのハンフリー銀行」である。

 あるとき、ご先祖はふと、帝都と南方トカゲ王国との間の物資の輸送量が増加していること、両者の間の輸送には必ず陸上ルートを通る必要があることについて、考えた。ご先祖は、帝国の地図を眺め、「帝国北部を流れる北の大河とトカゲ王国を流れる南の大河について、それぞれの大河の支流を運河で結びつけることができれば、公益としては物資の輸送が水上交通のみで完結し、私益としても、通航料による莫大な利益が期待できるのではないか」と、こういうことに思いが至るのであった。

 そして、ご先祖は、一念発起、私財を投じて運河会社(「南北大運河株式会社」)を設立し、運河の建設を始めた。なお、私財を投じたのは、高潔な理想などがあったわけではなく、運河が完成した際にそこから上がる収益を独占したいためである。ただし、現実には、建設資金を自らの財力のみで賄うことは不可能で、貴族や資産家や大商人などからも出資を募った。南北大運河株式会社の株式のうち、ご先祖の所有は約60%程度であった。

 運河の掘削工事は難航を極めた。工事途中で事故が発生して作業員が死亡したり、予期せぬ地下水の湧出で工事が中断したり、作業員が暴動を起こしたり、その他諸々のアクシデントに次から次へと見舞われることとなった。

 しかし、ご先祖は完成を諦めなかった。ご先祖は破産寸前にまで追い込まれながら、作業を陣頭指揮し、時には自ら現場でツルハシを振るい、着工から十数年の月日を経て、どうにか完成にこぎ着けたのであった。

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