平原の六人
平原に一筋の水路が延びていた。水路の幅は数十メートル、両岸は規則正しく並んだレンガで覆われており、時折、荷物を積んだガレー船が往来している。そのうち一そうの船のへさきには、プレートメールに身を包み、澄みきった瞳でもって、まっすぐに前方を見据える少年(年代的にはティーンエイジャー)戦士の姿があった。
「心地よい風だ。この分なら、到着まであまり時間はかからないだろう。今回のショボい仕事、サッサと終わらせて帝都に戻ろう」
この少年の名は、バーン・カニング。立身出世を目指し、とにかくビッグになりたい、いずれは大騎士になりたいという野望で心の中をいっぱいにして故郷の村を飛び出し、冒険の旅に出たのだった。しかし、今のところ、なかなか芽が出ないでいる。帝国を揺るがす大事件を解決して「皇帝の騎士」の商号を得るのは後々の話である。
「ねえ、バーン、そんなところにいたの。探したわよ」
バーンに声をかけたのは、特のとがった耳、銀色の髪、透き通るような白い肌、すなわちエルフの娘だった。
「ああ、マリーナ、君も来たのか」
マリーナと呼ばれたエルフ娘は、以前、ふとしたことからバーンと知り合い、それ以来、行動をともにしている。
とは言え、単に行動をともにするだけではない。マリーナ自身は、バーンとは相思相愛の仲と思っているような、そんな関係である。
「何か面白いものでも見えるの? エディたちは船室にいるわ」
「そうだな、船室で…… 昼寝でもするかな」
二人が向かった船室には、白っぽい服を着たポッチャリ顔のプリースト、背は高いが痩せていて腕力を期待できそうにない魔法使い、ひげモジャのドワーフ、何だかよく分からない人相の悪い男の四人が床に腰を下ろし、カードゲームに興じていた。
「ああ、また負けた。どうして、こう何度も負けが続くんだろう」
ポッチャリ顔のプリーストが悲鳴に近い声を上げた。行儀よく正座したプリーストの膝の前には、投げ捨てられたカードがばらばらに散らばっている。
「おまえ、本当に弱いな。これが最高秩序神の御加護とやらか」
人相の悪い男はそう言って、カードを片付けようとした。
しかし、その時、背が高いが痩せた魔法使いが、何かに気付いたらしく、
「ん? しばし…… しばし、お待ちを……」
カードを片付けようとする人相の悪い男をさえぎり、そのカードを取り上げた。
「ああ、やはり、こういうことですか。しかし……」
背が高いが痩せた魔法使いは、人相の悪い男をにらむ。
「そうじゃな。仲間同士でイカサマというのは、どうかな」
と、横からぼそっとつぶやいたのは、ひげモジャのドワーフだった。
この四人は、言うまでもないであろう、バーンの仲間たちである。バーンとマリーナを含め、この六人は、帝都でとある仕事を引き受け、現在、その仕事を遂行しているところであった。




