妻のめずらしい要求と、変わらぬ想い。
その夜、僕は美紀を抱いた。
それは、めずらしいことに妻のほうからの要求だった。
僕はそれを受け止め優しく優しく、上から順に口付けし、せいいっぱいの愛情で美紀を愛した。
妻もそれに応えてくれるように、決していやらしくはないが声をあげ、目を見ると少し潤んでいるようにも見えた。
「何年ぶりだろう…」
美紀は瞬きもせずにこちらを見て、水色のタオルケットを恥ずかしそうに笑顔で頬を若干赤らめながら上へとまくしあげた。
「だけど、よくする気になったね?」
僕は煙草に火をつけながら感心した様子でそう言った。
「私だって、その気になればできるよ。付き合ってた頃のようにね」
ドヤ顔でそう言ってきたので僕は妻のタオルケットを下にさげて顔をみながらこう言った。
「でも、結婚を機に全然しなくなったよね。普通、新婚なら逆だと思うんだけど、何でかな?」
優しい口調で僕はそう言ったつもりなのだが、妻の顔から突然笑みが消えた。すると、
「孝平は私の気持ちを全然わかってないようね!仕方ないじゃない!したくないんだもの…」
僕はつい、美紀の反感をかうようなことを言ったことに後悔した。
妻はさっさと真っ赤な下着を身につけ、白地に花柄のパジャマに着替えてしまった。
「怒らせてしまったなら謝るよ、ごめん…。でも、僕も男だからしたいときだってあるのさ」
謝罪しながらも僕は自分の意見を言った。
それからは、沈黙が訪れてきた。
美紀は、すぐにカッとなってしまうところがある。
そういうところも直してほしいと思いながらも、しばらくの間は僕は煙草を吸いながら間をもたせ、美紀はカーテンを少し開けて何か考えているようにそこを見つめていた。
突如、
「私、寝るから」
そう言い残し、僕とは反対の方向を向いて水色のタオルケットを再度かぶせて美紀は目をつぶった。
独り取り残されたような気分になった僕は、仕方なくパジャマを着て妻に反発するかのように、反対を向いて寝た。
せっかく、良い感じで過ごしていると思ったら僕の言い放った一言でこんな雰囲気になってしまうとは……。
そして、朝を迎え、昨夜は何もなかったかのように、今まで通り美紀は朝食を作ってくれている。
こういうところが、年は僕のほうが上だけれど、大人だなと感じた。
今日、僕は仕事、休みだ。
ランチは僕の小遣いで美紀と二人で何か食べに行こうかと考えていた。
たまには、後輩の野澤愛のことは置いておいて妻とゆっくり休日を過ごそうと思った。
昨夜、妻との情事があっても愛のことは忘れてはいないのは事実だ。