彼女の酷過ぎる嘘
昼休憩はもう少し時間があるので僕は車にもどった。
愛も僕のとった行動に満足気な表情で後ろからついてきて、車に乗った。
僕は複雑な心境だった。
たしかに愛のことはとても好きだ。
だが、あそこまで言うとは意外だった。
「捨てる姿を見たい」だなんて…。
僕はそれからというものの彼女の考えてることがあまりわからなくなってしまった。
今までなら、こういう表情の時はどう思っているかとか、だいたいの予想はついたのだが、あの一言以来、若干だが愛を疑うようになった。
これまでの愛とは違う…。
なんだろう?何が違うのか。
僕が黙って考えこんでいると、愛が話しかけてきた。
「先輩、何考えているの?」
今度はいつものなんの屈託のない笑顔を見せた。
僕が今、考えていた内容をそのまま愛に伝えた。すると、
「私にだってそういう悪女みたいな一面もあるということです」
と、言い、続けて愛は話を続けた。
「先輩は私を嫌いにならないと思います」
「その自信はどこから来るんだ!?」
さすがに僕も頭に来てそう言った。
「だって、相澤先輩は私にべた惚れじゃないですか」
今度は、不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
僕は徐々に目の前にいる彼女のことがわからなくなってきた。
と、その時、スマホのアラームが鳴った。
休憩時間が終わった合図だ。
「君の方こそ僕のことを強く思っているだろ!さ、仕事だ!」
強い口調でそう言い放つとカギもからずに僕はさっさと一人で店内へと戻った。
時刻は午後七時前。
僕は勤務を終え、帰るために車に乗るところだった。
マナーモードを解除しておくのを忘れてしまったスマホがバイブレーターの音だけ発しているのに気付いた。
乗車してからスマホをポケットから抜き取り、画面を見てみた。
相手は珍しく、同じ部署で部下の森末健二からだった。
細身でスラッと背が高く、イケメンだ。
ちなみに、彼はパート社員で、僕よりひとつ年下の二十八歳だ。
どうしたのだろう、と思いながら出てみた。
「もしもし、お疲れさん」
「主任!ちょっとどうなっているんですか!野澤さんが僕に泣きながら電話してきて、相澤先輩に犯された、って言ってますけど本当ですか!?」
「はぁ!?何言ってるんだよ!そんなことするわけないじゃないか!!」
僕はそんなことを言われ一気に頭に血が昇り怒鳴った。
「で、でも、本人はそう言ってますよ!?」
「そんな話しは嘘だ!信じるな!」
「は、はぁ…。じゃあ、どうして野澤さんはそんな嘘をついたんですかね?」
「そんなことは知らんよ。とにかく、僕が直接話しをつけるから店でも知らない顔をしていてくれ!」
「わかりました…。失礼します」
そう言って電話を切った。
あいつは…、愛は一体何でそんな行動にでたんだ…。
とんだ、嘘つき女だ!
僕は思った。
きっと、腹いせだろうと。
いつもはあまり怒らない僕だから、愛に一言、言ってやったから、それで怒ったのだろうと。
とても些細な一言だと思うのだが、彼女にとっては腹立たしかったのかもしれない…。
「君の方こそ僕のことを強く思っているだろ!さ、仕事だ!」
この一言に…。
思い当たるのはそれぐらいしかない…。




